暴走する赤(7)
もしかすると、悠真は赤という色を履き違えていたのかもしれない。赤を高貴とする火の国で生まれ育った悠真であっても赤が何なのか分からないのだ。赤は時に残酷で、強さを持ち、そしてこれほどまでに優しい。
「色を貸してくれ」
悠真は再度赤に言った。赤が紅を思う気持ちは本物で、その気持ちに嘘をつきながら悠真を守るために紅の死を覚悟している。悠真は必死にもがいた。少し離れたところで、赤丸が紅の暴走を収束させようとしている。暴れる義藤を羽交い絞めにしているのは都南だ。野江と黒の色神は暴走する紅の赤を囲い周囲への被害を防いでいる。膝をついて肩で息をしているのは秋幸だ。それでも秋幸は紅の石を使おうとしていた。葉乃と老人は身を固めて後ろに下がっている。この混乱を邪魔しないようにとの配慮が見て取れる。残る赤影は影から援護を続けている。かなりの術士であることは確かだ。彼らは必死すぎて、悠真のことには目もくれていない。悠真は無力な小猿なのだから。
このままでは、最悪の事態に足を進めてしまう。悠真には力があるはずなのだ。大切な仲間を守る力があるはずなのだ。紅を守る力があるはずなのだ。その力を持っているはずなのに、悠真には何も出来ない。命を惜しんで何も出来ない。それは、義藤らに負けているような気がした。
「負けたくないんだ」
悠真は呟いた。
「俺は、義藤たちに負けたくない。一人の術士として、俺は戦いたい。紅の下につく術士として」
悠真は赤に言った。すると赤は妖艶に笑った。
――悠真が紅の下につくことなどありえぬ。悠真は無色の存在。全ての色が欲する存在。可笑しなことを言うでないぞ。
優雅に笑う赤には、目の前の危機など存在しないようであった。それでも赤の目は違う。赤は苦しんでいる。紅が命を失うのではないかという不安に、押しつぶされそうになっている。
――待ちなさいよ!
突然甲高い声が割って入った。それは黒の声。