暴走する赤(6)
「紅」
柔らかく広がる声は赤丸のもの。未だに赤の暴走は止まらない。それでも、確実に弱まっている。
「紅、こっちだ」
赤丸の声が響く。紅を呼ぶ声、その声が包み込む。
「紅、大丈夫だ」
まるで幼い子供に語りかけるように、そっと赤丸は話しかけていた。赤い渦の中に赤丸は足を進めている。赤丸の周囲だけ赤が弱まっている。それでも色の乱れは止まらない。
暴走する赤はどれほど赤丸が収束させようとしても紅の暴走は止まらない。
(足りない)
悠真は思った。赤丸は優れた術士だ。しかし、色神ではない。色神紅の暴走を止めるには力が足りない。いや、赤丸が満身創痍でなければ出来たかもしれない。それほどまでに、今の赤丸は傷つき弱っている。
悠真は黒の色神の暴走を止めようとした時のことを思い出した。黒い波に呑まれていく感覚は、今でもはっきりと覚えている。赤丸は紅の暴走を収束させることが出来ない。できなければどうなるのか。きっと紅は命を落とす。赤丸が己の命を惜しんで紅を死なせるはずもない。紅も赤丸も命を落とす。二人が命を落としてしまう。それだけは嫌だった。
「赤、色を貸してくれ」
悠真は立つ赤に言った。このままでは紅の赤丸も命を落とす。すると赤は首を横に振った。
――小猿が死ぬようなことは出来ぬ。無色をそこまで振り回すことは出来ぬ。黒の色神の時とは違うのじゃ。紅がこのまま命を落とそうと、赤丸が命を落とそうと、火の国は滅びぬ。新たな紅が立つだけじゃ。わらわは、何度も人間に肩入れし、何度も己が色を滅ぼしかけた。わらわは、無色まで傷つけることは出来ぬ。
赤の妖艶な雰囲気が棘を持っていた。他者を排斥し、己の身を守ろうとしているような棘だ。