暴走する赤(5)
離れたところで都南と義藤が格闘している。義藤の方が優勢で、義藤は渦に歩み寄り続けている。このままでは、義藤も命を落としてしまう。
――頼む。
悠真は願った。直後、赤い渦が弱まったのだ。その色の変化に誰しもが気づいていた。悠真のすぐ近くにいる黒の色神が驚いたように目を見開き、そして辺りを見渡していた。一度、悠真を見たのは、紅の赤い色を収束させようとしているが悠真だと思ったからかもしれない。しかし、それは悠真の力ではない。黒の色神の視線は巡り、目を見開いていた。
「赤……丸……」
黒の色神の口が、そう動いた。
悠真が自由の利かない身体で必死に振り返ると、そこには半身を起こして片手を渦に向ける赤丸の姿があった。
色の力を収束させることが出来るのは、その色の色神だけだ。悠真は無色だ。だから、色の力を収束させることが出来る。ならば、赤丸は何だ?赤丸の一色は赤だ。優しいが強い赤だ。なぜ、赤丸が色の力を収束させることが出来るのか……。悠真には分からない。
赤丸は身体を起こしながら、戸惑う赤の術士に言った。
「義藤、無茶はするな。都南、義藤をしっかり捕まえておいてくれ。野江と黒の色神は、紅の暴走を囲う、囲いを解かないでくれ。すぐに終わるから」
赤丸は笑った。
赤丸はふらつきながら、その足は暴走する紅に向かっていた。悠真分からなかった。なぜ、赤丸にそこまでの力が残されているのか、あれほどまでに傷つき、力らを使い果たしているはずの赤丸は、己の足で立ち紅に向かっている。それは「執念」だった。赤丸の強さと紅への思いが赤丸を突き動かしているのだ。
傷つきながら、それでも赤丸は前に進んでいる。優しいが強い。赤丸の強さが前面に出ていた。
悠真は赤丸が何をするつもりなのか分からない。しかし、赤丸が何かをしようとしているのは事実だ。赤丸の中には何かしらの確信があるのだろう。紅を救う方法を知っているのだ。紅を救うには、赤を収束させるしかない。
赤丸には、その力がある。
「全ては俺の責任だ。俺がいなければ、黒の色神は暴走しなかった。俺がいなければ、紅が異形の者と戦う必要はなかった。そうだろ、赤、黒」
赤丸が言った先に目を向けると、そこには赤と黒が立っていた。
――わらわは、そちを生かしたことを後悔しておらぬ。
赤が言った。その目は赤丸に向けられている。
――厄色であることには、変わりないのよ。
黒が赤の影に隠れながら言った。赤はけらけらと笑い、そして赤丸に言った。
――赤丸、無茶をするでないぞ。
そして赤の声色が柔らかくなった。そして優しく赤丸に告げた。
――赤丸、そちは生きてよい存在じゃ。
赤の声は包み込むように広がり、暴走する鮮烈な赤は少しずつ弱まり始めた。