暴走する赤(4)
駆け出したのは紅の石を持たない義藤だ。義藤は躊躇うことなく赤い渦の中へ飛び込もうとした。それは、義藤ならば当然の行動。義藤ならば、紅を救うことが出来るかもしれない。悠真はそう思った。
しかし……
石を持たない義藤に、紅を救うことは出来ない。そもそも、色神を救うことなど出来るはずがない。色を収束させることが出来るのは色神だけなのだから。
義藤は派手に吹き飛ばされて、壁に叩きつけられた。しかし、一瞬、ほんの一瞬だけ紅の暴走が弱まったように思えた。紅も戦っているのだ。暴走の中で、戦っているのだ。きっと義藤の声は届いている。
「紅!」
壁に叩きつけられた義藤は、それでも紅の名を呼び、立ち上がろうとした。赤い血が、色白の義藤の頬を流れる。義藤の声が響くと、紅の暴走が一瞬弱まる。それでも、止まることは出来ない。
「紅、死なせたりしない」
義藤は再び渦に向かって歩き始めた。構えることもなく、身を守ることもなく、何事もないように真っ直ぐと渦に向かって歩き始めたのだ。
このままでは義藤が死んでしまう。ふと、悠真に不安がよぎった。どうやら、それは都南も同じらしい。都南は義藤に駆け寄ると、義藤の手首を掴んだのだ。
「義藤、死ぬぞ」
都南の言葉は端的で、その内容を包み隠さず伝えている。義藤より都南の方が力が強い。それは周知の事実なのに、義藤はつかまれた姿勢から身体をねじり、容易く都南の束縛から逃れたのだ。
「おい、義藤!」
都南はむきになって義藤を止めようとした。大柄な都南が、華奢な印象さえある義藤を押さえようとする。結果は明らかなはずなのに、都南は義藤を押さえることができないのだ。
――もう一度、力を……。
悠真は手を握り締めた。その手に少しずつ力が入り、悠真は握り締めた手に赤を求めた。
――死ぬわよ、悠真!それはさせられないわ!
無色が悲鳴のように叫んだ。しかし悠真は力を求めた。紅には恩がある。紅には未来がある。こんな時に、悠真の脳裏に赤の言葉が響くのだ。先代の紅が未来を思い、死を覚悟していたことを。今の紅には仲間が多い。そして紅自身も多少無茶をする性格であるが優れた人だ。何が正しいのか模索している。赤の術士たちは紅を信頼し、紅に未来と命を託している。この火の国を守ることが出来るのは紅だけなのだ。その紅は、ここで命を落として良い人ではない。火の国の未来を、こんなところで閉ざすことは出来ない。
――もう一度、もう一度力を……。
悠真には力があるはずなのだ。その力は何のためにあるのか。悠真の身を守るため、無色の力の器になるため、いや、悠真の力は悠真のためにある。悠真が守りたい物を守るため、守りたい人を守るため、守りたい未来を守るため、悠真の力は悠真の中にあるのだ。今、悠真が守りたいと願ったのは、悠真の信念だ。紅の鮮烈な赤に惹かれた悠真の信念だ。
――頼む。
悠真は無色に願った。しかし無色は悠真を無視するのだ。