暴走する赤(3)
黒の石の力は一つにつき一回だけ、不死の異形を生み出す力だ。その中で、この異形の者は何度も生み出されている。団子屋で、薬師の小屋で、悠真は見た。どうやら、特別な黒の石のようだ。それは、紅が生きている限り色を失わない、紅の持つ紅の石のようであった。
「九朗、暴走とは何だ?」
黒の色神の身体を支える都南が低く言った。すると、黒の色神は哀しみの色の濃い笑みを浮かべた。
「力の制御が出来ないのさ。今の赤の色神に自我はない。ただ、破壊を求めて暴れるのみ。あの時の俺と同じだ」
すると、都南は黒の色神を座らせた。
「止めろ、都南。無駄だ。暴走した色神は、力を使い果たし死を待つのみだ。俺たちに出来るのは、それまでの間、誰も傷つかないように押さえるだけ」
黒の色神の言葉に救いはない。
「ふざけるなよ、九朗。紅は、あんたを救うために無茶をしたんだ。俺は、紅を死なせたりしない。俺の命を捧げるのは、あの紅なんだ。己の身を危険にさらしても、守るべきものは守る。それが紅なんだ。紅はあんたの命を守ろうとした。何とも紅らしい。それでこそ、俺が仕える紅だ」
都南の言葉に遠慮はない。彼は、相手が黒の色神であることを意識していないようであった。紅は優しく強いから、黒の色神を救おうとした。都南は紅を救おうとする。それは、当然なことだ。
都南は赤の渦の中へ駆け出した。しかし、都南は何も出来ない。都南では、紅を止めることが出来ない。
悠真の身体の自由は利かない。悠真は分かっているのだ。悠真は知っているのだ。紅を救うたった一つの方法を、悠真は知っているのだ。
――同じこと。
悠真は黒の色神を救うために、黒を収束させようとした。同じようにすれば良いのだ。紅の鮮烈な赤を収束させれば良いだけなのだ。
――もう一度、もう一度力を……。
悠真は床に横たわりながら、それでも手を伸ばした。
「紅、もう終わりだ!」
都南が紅を止めようと再び叫んだ。刀を構えた都南さえ、赤の渦へ近づくことが出来ない。
――もう一度、もう一度力を……。
願う悠真は暴走する赤の渦を見ていた。
――死ぬわよ。それに、今の悠真にその力は無いわ。
無色の声が悠真を止めた。それでも悠真は願わずにはいられない。悠真は忘れられないのだ。紅の持つ鮮烈な赤を、忘れることが出来ないのだ。心の中に赤い花が咲いている。紅の持つ赤に惹かれているのだ。
「死なせたりしない」
悠真の耳に声が響いた。それは、義藤の声。