暴走する赤(2)
黒の色神は都南の方を借りて立ち上がると、その手を異形の者に向けた。
「いざべら、戻って来い。お前は、俺の力だ」
黒の色神は言った。そして、懐から幾つもの四つの黒の石を取り出すと同時に空へ投げた。黒の色神の支配から抜けた異形の者に、あれだけ力を貪られて、それでも黒の色神は四つの異形の者を生み出した。四つの異形の者は、支配から抜けた異形の者を取り囲み、押さえ込んだ。黒の色神は、赤の渦を交わしながら支配から抜けた異形の者に駆け寄ると、その胸に手を突っ込んだ。
「石に戻れ、いざべら」
黒の色神が言った途端、四つの異形の者は消えた。そして、黒の色神の手の中には黒の石が握られ、再び異形の者は黒の色神の支配下に落ちた。
これで全てが終わるはずだった。しかし、赤の暴走は始まってしまった。
「紅、何をしているの!」
赤の中、野江の声が響いた。紅は力を使うのを止めない。野江は分かっていないのだ。紅が黒の色神と同様に暴走しているということを。
「紅、もう終わりだ!」
都南も叫んだ。都南も知らないのだ。色神が暴走すると、一体どうなるのか。黒の色神は暴走の果てに魂と身体が分離した。そして今、紅がその危険に足を踏み入れようとしている。
紅の暴走を囲うように、野江が力を発動している。野江は歴代最強の陽緋だ。だからこそ、暴走した紅の力を囲うことが出来る。しかし、野江はただの術士だ。色神に勝てるはずも無い。
野江の囲いは崩れ始めた。あたりは鮮烈な赤に包まれている。赤が輝き、赤が煌めく。野江の赤と、紅の赤。二つの赤の力の差は歴然としている。暴走した紅の力は、野江を凌駕する。紅の表情は赤い閃光に包まれて見えない。しかし、悠真には分かった。紅が身体の自由を奪われ、心では止めたいと叫んでいることが。
「まさか、赤の色神まで暴走するなんて……」
黒の色神が膝を着いた。それでも、黒の色神は紅を救おうとしてくれていた。黒の色神が生み出した四つの異形の者は、野江を補佐するように広がり、暴走する紅の鮮烈な赤を覆うために広がった。それでも紅の力を防ぐには足りない。黒の色神は、先ほどまで支配下を逃れていた異形の者を呼び出した。