赤に厄をもたらす色(12)
紅の色が強まった。
紅の色が強まった。
鮮烈な赤は強い輝きを持ち、渦を巻いている。補佐する秋幸の色が弱く見えるほどだ。これが色神の力なのだと痛感させられる。只の術士と一線を引くのは当然だ。色神は色に選ばれた存在。神のような存在。紅の力は誰よりも強い。間違いない真実だ。
消えそうな視界をとどめるように、倒れそうな身体を叩き起こすように、折れそうな心を奮い立たせるように、悠真は考えた。色のことを考え続けた。さまざまなことを考えては消していく。そうしているうちに、悠真は嫌な予感を覚えた。それは思考の感染症のようであった。悠真の前向きな意識を、悪い方へ、悪い方へと導いていく。
黒の色神は赤丸に固執した。固執して、限界を超えた力を使い暴走した。同じことが紅に生じないという保障はあるのだろうか。
紅の鮮烈な赤が力を再び持ち始めた。心を失っている。鮮烈な色は変わらないのに、感情がない。暴走の渦が始まり始めた。
秋幸が膝を着いた。限界に達したのだ。これで、赤影の力と紅の力のみが頼りとなった。赤影の力は弱っている。そして、赤影の色も途絶えた。
下村登一の乱の時、確かに紅は必死だった。しかし、最悪の状況を免れる方法もあった。下村登一を殺せば良いのだ。殺さないというのは、紅の信念によるものだ。暴走に繋がるようなことがあれば、逃げ道はあった。しかし、今はない。紅が倒れるということは、黒の色神が死ぬということだ。黒の色神の死は、宵の国の戦乱に繋がる。
野江と都南はどのくらいで着くのか。時間はどのくらいかかるのか。悠真が倒れるか、紅が暴走するのか、黒の色神が到着するのか、この状況を終わらせる選択肢は三つしかない。悠真が力尽きることと、紅が暴走することは最悪の選択肢だ。
「紅!」
響いたのは義藤の声だった。紅の異変に義藤は気づいている。しかし、力を発揮している紅の近くに、誰が近づくことが出来ようか。
(早く。一刻も早く)
悠真は願った。野江と都南が一刻も早く黒の色神の魂を連れてきてくれることを。しかし、紅の暴走は始まった。
暴れる赤。赤は辺り構わず傷つけ始めた。咄嗟に義藤が青の石を使って守ってくれなければ、悠真も黒の色神も力尽きた秋幸も、可那も老人も命を落としていただろう。その赤は悠真の知る紅の鮮烈な赤ではない。赤は熱の力なのに、冷たく感じるのだ。
「紅!」
義藤が紅に駆け寄った。しかし、暴走する紅は義藤にさえ気づいていない。義藤は身を守ろうとしないから、紅の暴走した赤色が義藤を傷つけていた。
「紅!」
義藤は叫んだ。すると、一瞬、紅の暴走が弱まったように思えた。暴走しているのに、義藤の声が聞こえているようであった。しかし、暴走した赤は義藤を傷つける。
義藤は紅を守ろうとしていた。義藤が紅の名を呼んでも、紅の暴走は止まらない。紅は苦しく辛そうな表情を浮かべているのに、暴走は止まらない。これが、暴走なのだ。