赤に厄をもたらす色(9)
鮮烈な赤。
悠真は赤を感じた。横を見ると、赤丸は倒れていた。呼吸は荒く、赤丸が放っていた赤は消え、今、異形の者を押さえているのは紅の赤だ。
「悠真、黒の色神に力を送り続けろ。私が異形の者を押さえる」
鮮烈な赤と共に紅の声が響いた。
紅と一緒にいるのは、義藤だ。紅の隣に義藤がいる。それはとても自然な光景だ。そして、秋幸と老人と……。悠真は目を見開いた。そこにいるのは可那だった。跳ねるように動く可那は戸惑って目を見開いている。そして、義藤の腕の中には赤星がいた。
「秋幸、疲れたら交代だ。義藤、私の紫の石を使い、野江に連絡を取れ。どれくらいで着くか、確認しろ」
義藤は頷くと、そっと赤星を床に下ろした。そして紅に歩み寄ると、紅の手首につけられた紫の数珠に触れた。
「都南、黒の色神の魂はどのくらいでこちらへ着く?今は紅が異形の者を押さえている」
義藤は都南に連絡を取っていた。紅は野江に取れと言ったのに、義藤は都南に取っていた。悠真はそんな小さなことに気づく人でなかったのに、それに気づくということは、下村登一の乱以降、几帳面な義藤と一緒にいる時間が長いと同時に、義藤に憧れていたためかもしれない。
「分かった」
義藤は返答すると、紅に告げた。
「あと、二十分ほどだ。もう、官府の近くまで来ている」
義藤の報告に、紅は不敵に笑った。
「ならば、持ちこたえよう。義藤、秋幸。三人をこっちまで連れてきてくれるか?もし、私が倒れても、異形の者に黒の色神を喰わせるな」
鮮烈な赤は力を持ち、鮮烈は希望を届ける。悠真はその赤に惹かれていた。紅がいる。それだけで強い気持ちになれるのだ。赤と黒の渦の近くにいる悠真と赤丸、そして黒の色神の身体に向かって、義藤と秋幸が駆け寄ってきた。義藤は何ともいえない表情をしていた。抜き身の刀のような顔立ちをした義藤が哀しそうな表情を浮かべているのだ。それでも義藤は弱さを見せたりしない。そして秋幸は安堵したような表情を浮かべていた。今は最悪な状況でない。秋幸はそれを分かっているのかもしれない。