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一色  作者: 相原ミヤ
火の国と紅の石
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赤との出会い

 数時間後、長く降り続いた雨は止み、雲の間から太陽の光が差し込んだ。それと同時に、悠真の意識は遠のいた。助かったという安堵と極度の疲労がもたらしたのだ。


 海の音が心地よい。潮の香りが心を満たしていく。しかし、体は燃えるように熱い。熱で節々が痛み、体が重く感じた。世界は赤く、熱い。赤い。赤い。燃えるように赤い。

――悠真

遠くで母の声がした。記憶の中に残された母の声は、いつまでも若いままだ。赤い世界の中で、悠真はもがいた。体が石のように重く動かない。目を開いても赤い色しか見えない。

――色は力を持つ。

惣次の声がした。

――紅の石は赤い色の力を引き出す。強大な力を引き出す。破壊しか出来ないと思う輩が多い中、よく守ったもんじゃ。

そこで悠真はゆっくりと思い出した。嵐が村を襲い、祖父が死んだ。惣次が死んだ。村は消えた。悠真は紅の石を使った。重く熱い体は、それが原因なのかもしれない。

 赤い色は高貴な色。赤を纏える者は限られている。赤い色。赤い色。

――のお、小猿。

女の声がした。高圧的で、強い声。気高く、赤く響く声。悠真は辺りを見渡した。辺りは赤い世界。高貴な赤い色の世界。

――わらわの色に染まれ。小猿。赤が小猿を守るぞ。赤こそ、最も気高く美しい色じゃ。

赤い世界。赤い声。悠真は声の主を探した。気づけば、声の主は悠真の目の前にいた。赤い髪、色白の肌に赤い唇が栄えている。襟元を大きく開いた着物は赤い色。赤い瞳。高貴な赤は彼女の色なのだと、悠真は悟った。

「色神紅」

悠真は彼女が紅だと思った。火の国の色神。この火の国は赤い色を司る色神紅を有している。強大な力を持つ赤い色は火の国の色だ。悠真が彼女を紅と呼ぶと、彼女は、けらけらと笑った。

――誰が紅じゃ。わらわは赤。色神ぞよ。紅はわらわの色を使い、わらわの色の石を生み出すだけ。わらわが赤。小猿、わらわの色になれ。他の色になるな。赤がもっとも強く美しい色じゃ。

赤と名乗った色神は悠真の顎に指をかけた。細い指はとても強かった。

――赤が小猿を守る。今度こそ、赤が世界を取る。

悠真は彼女が何を言っているのか分からなかった。

――お下がりなさい。赤。まだ、この子は色を選んでいないわ。

一つ、声が響いた。悠真は声の主を探した。澄んだ、無色な声。

――五月蝿い色じゃ。赤を選ぶのは時間の問題じゃと言うのに。

赤はすっと悠真から手を引いた。

――この国は赤の国ぞ。赤い色が守る国。この国で生きる以上、赤の力を必要とするはずじゃ。いつでも貸すぞ。赤を選ぶのならの。わらわの色を選べ。

赤は悠真に言った。そして、美しく身を翻した。

――一つだけ。小猿がわらわの色を使い、他の色も小猿の存在に気づいたはずじゃ。ぐずぐずしておっても、他の色に狙われるだけじゃ。よう覚えておけ。色は動き始めた。

赤の大きな帯が優雅に揺れた。結い上げられた赤い髪。細い首のうなじが美しい。悠真は赤に心を奪われかけていた。

――悠真。

無色な声が悠真を呼んだ。

――容易く選んではいけないわ。赤は力の色。平和と戦いを生み出す。色が悠真を狙ってくるわ。火の国の外から全ての色たちが。大丈夫、悠真が選ぶまで、私が悠真を守るわ。

何色でもない無色な声。悠真の心に住んでいるのは、何色でもない。悠真は色を持たない。それが分かった。赤い世界が無色な声に掻き消されていった。無色透明の、少し冷たい世界。熱された世界が冷えていく。とても心地よく感じるのは、それが悠真の色だから。

――色神紅に会いなさい。復讐とは関係なく。今の紅は優れた人だから赤に唆されることは無いでしょう。無防備なまま他の色に狙われるのなら、赤に身を寄せるのも良いでしょう。既に、私の色は動き始めたのだから。

その声は悠真を守る声。世界は動き始めた。田舎で平穏に暮らしていた悠真の世界は動き始めた。それが分かった。


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