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一色  作者: 相原ミヤ
火の国と紅の石
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赤の手合わせ(4)

 向き合う都南と義藤はゆっくりと刀を構えた。二人の間の色が強まり、悠真の隣に座る紅が不敵に笑った。まるで、その笑い声を合図とするかのように、都南と義藤が同時に駆け出した。

 悠真は「手合わせ」を始めてみた。それは遊戯のようで、遊戯のような笑いは含まれていない。剣術に縁遠い存在である悠真でも、二人が優れた剣士であるということは理解できた。

 駆け出したのは二人同時だった。都南は右手に刀を持ち替え、義藤は左から都南に斬りかかった。着物がはためき、刀と刀の擦れ合う衝撃で小さな火花が散った。

「出だしは都南の方が余裕だな。義藤は焦りすぎだ」

紅が頬杖をついて悪態をついたが、悠真には何が何なのか分からなかった。

 最初の接触は一つの火花と同時に義藤が手早く身を引いた。義藤が身を引いた直後、都南が速い動きの転換で義藤のいたところを切裂いていたのだ。一歩遅ければ、義藤は真っ二つになっていただろう。都南は片手で刀を持っている。まるで、都南と義藤の間には大きな実力さがあるようだった。

 都南と義藤は円を書くように間合いを保っていた。都南が一歩前に進めば、義藤が一歩後ろに下がる。義藤が一歩前に出れば、都南が一歩後ろに下がる。都南は無防備に歩いているようで、隙の無い動きをしていた。都南と並ぶと、義藤が剣術で劣っているように見えるが、義藤は悠真の喉元に容易く刀を突きつけた存在。義藤の実力を考えると、都南が計り知れないほど優れた剣術の使い手なのだと証明されていた。

「義藤も腕を上げたね」

佐久が後ろから義藤を褒めていた。

「当たり前だろ。義藤は忙しい仕事の合間を縫って、毎日、毎日、一人で鍛錬を続けていたんだからな」

紅が笑っていた。

 「手合わせ」と言うからに、悠真は二人が激しく打ち合う様子を想像していた。しかし現実は違う。二人は互いに見合わせる時間の方が長いのだ。二度目に二人が打ち合ったのは、しばらく経ってからだった。二度目の打ち合いで先に駆け出したのは都南だった。都南は義藤に向けて踏み込むと片手で持っていた刀を両手に持ち直し、下から上へと斬り上げた。義藤は後ろに飛び跳ねて交わすと、着地と同時に足を踏み変え都南の懐目指し、刀を突き刺した。

瞬きをするよりも短い間に、都南と義藤の攻防は続いていた。義藤が都南を突き刺すために突いた刀の先を都南は左に交わしながら刀で払い落とした。払い落とされながらも引かぬ義藤は、刀と刀を擦らせながら刀を押し払っていた。刀と刀で強い押し合いが行われていた。

「腕力では義藤に勝ち目は無いな。都南に腕っ節で勝てる男は滅多におらん」

遠次が言った直後、義藤は跳ねるように後方へ飛び、二人は再び間合いを計った。遠次が言ったように、都南と義藤では腕力が違うらしい。見た目からも想像できるが、都南の方が義藤よりも体が大きい。浅黒い肌をした都南と、少し色白な義藤では、誰が見ても都南の方が強いということだろう。義藤は腕力で勝てないことを知っているかのように、身を引いたのだ。引いた義藤を見て、都南が笑った。

「おいおい、義藤。お前、腕を上げたな。冷静な判断も磨きがかかっている。腕力もかなり上げたんじゃないか?」

都南が額を着物でぬぐいながら言った。一方の義藤は肩で息をしていたが、その目はまっすぐに都南を捉えていた。

「俺は強くならなくちゃ、いけませんから」

義藤の額から汗が流れていおり、都南は笑っていた。

「だが、俺はまだ抜かされるつもりはないぞ」

都南が言い、再び刀を構えた。

「いつの日か、抜きます。あなたも、野江も、佐久も……。俺は、強くならなきゃいけないから」

義藤も言い、再び刀を構えた。

 三度目の打ち合いは、二人同時に駆け出した。上から刀を振り下ろすのは都南。下から迎え撃つのは義藤だった。刀から火花が散った。今度は二人とも後ろに下がることをしなかった。義藤が力ずくで刀を振り上げたが、都南は後ろへ交わした。義藤よりも都南の方が一枚上手だ。直後、義藤が態勢を立て直す前に都南が刀を横に振りぬいた。

 悠真は義藤が斬られると思った。都南の腕は義藤よりも長く、都南の間合いは義藤よりも大きい。都南の刀は義藤の刀よりも長い。力任せに都南の刀を振り払った義藤に、態勢を立て直す余裕は無い。義藤の色と、都南の色が激しくせめぎ合い、悠真の横に座っている紅が身を強張らせるのを悠真は感じた。

 白い玉砂利が二人の足元で音を立てていた。都南が横に振りぬいた刀、義藤が地に沈み込む。

――怪我をすることはない。

悠真は紅の言葉を信じていた。目の前で誰かが傷つくところを見たくなかった。悠真が声を出すよりも早く、悠真が目を閉じるよりも早く、義藤は地に沈み込み低い位置から都南の間合いの外へと抜け出した。剣術など知らない悠真は、何が起こったのか分からなかった。義藤が体をかがめて都南の刀を交わし、屈んだまま転がるように間合いの外へと抜け出したのだ。

「小猿、義藤が斬られたかと思ったのか?」

紅が笑いながら言った。

「言っただろ、義藤は天才だ。まだまだ、都南には及ばないがな。めずらしく都南が本気になるぞ。あいつは、紅の石を使わずとも術士以上の力を持つ存在。今の義藤に勝ち目は無いさ」

紅が真面目な目をして、都南と義藤の手合わせを見るから、悠真は紅の視線の先を追った。

 四度目の打ち合いは、都南の一方的な攻撃だった。都南は何度も何度も刀を振りぬき、義藤はそれを受け止めていた。悠真は目で追うのが精一杯だった。刀から小さな火花が飛び散り、義藤は防戦するばかりだった。悠真が視線を動かすと、紅の石を持った野江が、打ち合う二人に一歩歩み寄っていた。野江が手合わせを止める間合いを計っているのだ。

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