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一色  作者: 相原ミヤ
火の国と紅の石
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赤の手合わせ(3)

 手合わせを願った義藤と、それを受け入れた都南は草履を履いて中庭に下りた。紅たちは縁側にでると胡坐をかいて座り、悠真は紅たちの後を追った。障子を開くと、白い玉砂利が敷き詰められた中庭があり、そこに都南と義藤は立っていた。義藤は丁寧な仕草で赤い羽織を脱ぎ、都南は荒々しい動きで赤い羽織を脱ぎ捨てた。義藤は赤い羽織を手早く畳むと、縁側にそっと置き、都南は赤い羽織をぐしゃぐしゃに丸めると縁側に置いた。

 遠次と紅は縁側に座り、鶴蔵は状況に怯えるように障子の影に隠れていた。佐久は紅の少し後ろに座っていた。

「何かあったら、あたくしが間に入るわ」

野江が縁側から草履を履いて中庭に降りた。居所の分からない悠真は部屋の中から出れずにいた。すると、紅がにっと笑い、手招きして悠真を呼び寄せた。

「小猿、こっちに来い」

紅が呼ぶから、悠真は四這いのまま、恐る恐る紅の横に座った。紅の隣に座ると、彼女の持つ赤い色が鮮やかに輝き、部屋に満ちていた香の匂いが放たれていた。

「都南は強いぞ。剣術ならば、右に出るものはいない。紅の石を使わずに戦うということは、義藤にとってかなり不利だな」

紅は義藤を見て言うと、自慢げに語った。

「私の自慢の仲間たち。術の腕は佐久が一番上だ。剣術ならば都南が一番上だ。そして、術と剣術を兼ね備えるのが野江だ。義藤も、術にも剣術にも秀でる存在。剣術で都南に並びたいと思うのは当然の心理だろうな。義藤が狙うのは、剣術の頂点都南と、術士の頂点野江。術を使う力自体は佐久の方が上だが、佐久はあの通り。実際場面で戦うならば野江だろうな」

遠次が咳払いをして、口を開いた。

「義藤をからかうのは止めておけ。あいつは、紅が思っている以上に必死なのさ。お前が考えている以上に、あいつは己を鍛えている。努力を惜しまぬ天才よ」

遠次も義藤を高く買っているのだと、悠真は理解した。

 都南と義藤は互いに朱塗りの刀を抜いた。都南の刀は義藤のそれよりも一回り大きく、太く長かった。不思議なことに、都南の刀は刀身まで赤く作られていた。それは、まるで紅の石だ。

「都南の刀は、我が国最高の加工師柴が作った刀。あれは刀と呼ぶより、紅の石と呼ぶほうが正しい。柴が紅の石を加工し、刀に鍛え上げたんだ。二年前から、都南はあの刀を使っている」

紅が解説するように悠真に教えてくれた。加工師柴のことを悠真は知らないが、柴の加工の腕が群を抜いていることは感じていた。加工師柴が紅の石を加工し刀にした。その刀の存在が、術を使えない都南が朱将として立つことが出来る秘密なのだ。紅の石で鍛えられた刀が、都南を支えている。

 義藤が抜いた朱塗りの刀は、白刃の刀だ。刀匠が鍛えただろう刀は、光を反射して美しく輝いた。流れるように義藤は刀を構え、両手で刀を持った都南も赤い刃を義藤に向けた。

「真剣の勝負なのか?」

思わず悠真は紅に尋ねた。悠真は術士にも剣術にも縁遠い存在だが「手合わせ」は竹刀で行われるものだという常識はあった。仲間同士で真剣を向け合うなど常軌を逸している。

「当然だろ。あの二人は今から本気で殺しあう。互いを敵だと思って、寸止めなんてありえない。大丈夫、案ずるな。そのために野江がいるんだ。傷をつけそうになったら、野江が紅の石の力で止める。もし、野江が間に合わないなら、佐久もいるし私もいる。今まで、怪我をしたことは一度も無い。特に、今回は紅の石も使わない、剣術だけの手合わせだ。滅多なことは生じないさ」

紅は当然のように言い、悠真は都南と義藤を見た。都南と義藤がもつ赤い色が強まった。二人の持つ一色は、似てるようで違う。一色とは、万人が持つ己の色。同じ色は存在しない。悠真は義藤の色に見覚えがあり、目を細めて思い出した。

――赤、赤、赤……

悠真はどこかで義藤の一色と同じ色を見たのだ。悠真が色を見ることが出来るようになったのは、今朝から。義藤と出会ってからの時間も浅い。そのとき、悠真は理解した。紅の石にも色の個性があることと、紅の石の色の個性が術士とまったく同じであることを。悠真が義藤の一色を見たのは、悠真が義藤の紅の石を暴走させた時。義藤の紅の石と、義藤の一色は同じなのだ。義藤の紅の石と野江の紅の石の色は異なる。元来は、色神紅が生み出した同じ色のはず。紅の石に個性が出るときは、加工の時としか考えられ名い。つまり、紅の石の加工とは、紅の石が持つ赤い色を術士の色と同じ赤にすることなのだ。誰しもが一色を持つ。一色と紅の石の色が同じであるときに、術士は紅の石の力を引き出すことが出来る。

――小猿は色を見る良い目を持っておるのぉ。

赤の声が悠真の脳裏に響いた。声の方向に目を向ければ、紅の後ろに赤が立っていた。

――紅の石の力は加工によって左右される。我が赤色は強大な力を持つ色じゃ。されど、紅の石は、加工をしなければ大した力を発揮することは出来ぬ。火の国の民は器用な民での。我が色の力を発揮するため加工という技術を見出して、加工によって、己の持つ一色と紅の石の色を近づける事で、紅の石の力を発揮させるのじゃ。通常、加工には紅の石と本人の力を比較して極力色が同じになるように近づけていく。されど、それは色に差が出やすく、差が出るほど紅の石は脆くなりやすいから、野江や佐久、義藤と言った優れた術士ではすぐに石をだめにしてしまうのじゃ。されど、紅が認める柴は違う。柴は己の目で色を見ることが出来る上、元来術士である柴は色を引き出すことにも長けておる。小猿は、柴に並ぶ良い目を持っておるが、術士として未熟ゆえ、加工師には向かぬの。

赤は都南と義藤を見て、けらけらと笑った。

――義藤の石が色を弱めたのはの、小猿が赤に染まらぬまま使ったからじゃ。か弱き人間どもが、強くなろうと足掻いておるぞ。我が紅が信頼を寄せる二人が本気で戦うぞ。

赤は嫌味な言葉が多い。しかし、火の国の民を思っているということは感じられた。赤がいるから、火の国は守られている。

――小猿、見ておれ。あれが、優れた術士の姿じゃ。

赤が言うから悠真は都南と義藤に目を向けた。

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