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一色  作者: 相原ミヤ
火の国と紅の石
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赤の手合わせ(2)

 義藤が野江と都南に手合わせを願い出て、紅は手を叩いて喜び、体を起こすと胡坐をかいて座った。そんな紅を野江が叱責した。

「紅、けしかけるのは、お止めなさい。義藤も義藤よ。なぜ、今日に手合わせをするの?」

野江は紅に世話をやく姉のようだった。

「野江、義藤に負けることが怖いのか?」

都南が嫌味をこめて言い、野江は強い口調で返した。

「都南、あたくしの心配は結構よ。義藤もいい加減になさい。手合わせなら、いつでもしてあげるわ。今日以外の日ならね」

義藤は困ったように首をかしげ、続けた。

「今日でないと意味が無いんです。俺は今日、死ぬかもしれません。死ぬとしたら俺が弱いからでしょう。ですから、自分に言い聞かせたいんです。己は少しずつでも強くなっていると」

義藤の言葉に悠真は驚いた。悠真の守をすると言った義藤は、己の死さえ見据えているのだ。自分が死ぬかもしれない。復讐に息巻く悠真は自分の死を考えることが出来なかった。復讐という目的を果たすまで、己は無事だという根拠の無い考えがあるのだ。それはまるで、子供のような浅はかな考えだ。己の死を見据えて、己の実力を確かめるために手合わせを願う。それは、一般人の悠真には理解しがたい考えだった。そんな義藤に野江は首を振った。

「あなたは強くなっているわ。あたくしは知っているもの。義藤は忙しい業務の間、毎日鍛錬をしていたわ。あたくしたちは義藤の力を認めているの。いつの日か、あなたに追越される日を待っているの」

野江は真面目な性格なのだろう。今夜、義藤が死ぬ可能性があるから、気を使っているのだ。陽緋野江の威圧感は言葉では表現しがたい。野江に萎縮され、都南さえも口を止めてしまった。その沈黙を破ったのは紅だった。

「良いじゃないか。相手をしてやれ。ただし、今回は都南だけな」

紅が笑い、続けた。

「まず、黙って私の話を聞け。いいから、怒るなよ。今回の義藤との手合わせは都南だけだ。野江はおとなしくしておけ。――理由はな、今回の手合わせは紅の石の力を使わずにするからだ」

言うと、紅は身を乗り出し義藤が首から掛けている紅の石に手を伸ばした。

「小猿の暴走に当たって、義藤の紅の石の色が弱っている。義藤がこの石を使い始めて二年。本来なら、まだまだ色が失われるような時期ではないが、なぜか弱っている。今夜、戦うのなら、今使わない方がいい。一応、後で新しい紅の石を渡すが、柴が加工した石でないから、義藤の力に新しい石がどこまで耐えられるか分からない。だから今日は、術を使わない都南との手合わせにしておけ」

紅は義藤の紅の石を握ると、手放した。悠真には、義藤の紅の石に生じた変化など分からない。紅の石の変化を感じることが出来るのは、紅が色神であり、紅の石を生み出す唯一の存在だからだろう。紅の言葉に間違いはないはずだ。野江が目を見開き、紅に抗議した。

「紅の石が色を失う可能性があるのなら、なおのこと義藤が囮になるのは……」

紅の石の力は無限に使うことが出来るわけではない。紅の石には使用期限があり、酷使すると色を失う。どのくらいの周期で色を失うのは術士でない悠真には分からないが、加工師の加工の腕にもよる、と聞いたことがある。義藤は術士だ。剣術も優れていることながら紅の石を戦いの術として利用するはずだ。紅の石が色を失うことは、義藤が戦うことに対して大きな不安要素となる。

「野江、黙っておれ。その話はもう終わった」

一喝したのは遠次だった。遠次の年齢と立場と貫禄で野江だけでなく赤の仲間たちは皆、身を縮めていた。紅は困ったように頭を掻きながら野江に言った。

「小猿の力を試そうと、義藤の石を小猿の近くに差し出すように仕向けたのは私だ。私だって困っているさ。まさか、義藤の紅の石の色が急激に弱まるなんて、思ってもいなかったからな。新しい紅の石を用意するように手配はしている。質の良いものを加工師に渡しているが、加工師の腕がな……。柴の奴が戻ってくるなんて、都合のいいことが起こるはずもないから、今は義藤の紅の石の力を使わないようにするのが、一番なのさ」

義藤は首からかけた己の紅の石に触れて笑った。

「紅、何の心配も無い。俺は、剣術の鍛錬も積んできたからな」

義藤の言葉は温かく、紅を思う気持ちで溢れていた。紅には何の否もない。全ては己が決断したことだ。と義藤は態度で示していた。悠真は、義藤が良い奴に見えて、どこか腹が立った。都南が台を手の平で叩いた。

「分かった。義藤、外に出ろ。朱将の都南が手合わせをしよう」

都南が朱塗りの刀をついて腰を浮かせた。

「ありがとうございます」

義藤は一度頭を下げると、流れるような所作で赤い羽織の袖を正しながらゆっくりと立ち上がった。

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