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一色  作者: 相原ミヤ
火の国と紅の石
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赤のからくり師(1)

義藤の決意と悠真の決意に茶会は不思議な局面をきたしていた。緊張からか悠真はお茶をたくさん飲み、気づけば湯のみは空になっていた。それに気を使った佐久がお茶を入れようと立ち上がり、当然のように足をとられて転倒しそうになるから、当然のように都南が支えていた。

「お茶なら、俺が淹れますよ。危ないので、座っていてください」

義藤が流れるような所作で湯を沸かすからくりに手を伸ばし紅の石をからくりに仕込んだ。悠真は気遣いをする義藤がどこか気に入らなかった。義藤が気遣いをするとどうあっても、彼が良い奴だという結論に達してしまうからだ。術士である義藤は当然のように紅の石の力を活用し、からくり師が作り出したからくりで湯を沸かそうとする。悠真が紅の石で湯を沸かす瞬間を見ようと目を細めたとき、「おや」と義藤は手を止めた。

「からくりの調子が悪いんじゃないですか?」

義藤はからくりに仕込んだ紅の石をはずした。

「このからくり、使わない方がいい。以前、鶴蔵に言われたことがあります。からくりは生き物と同じだと。無理をさせない方がいいです。からくりは、鶴蔵にとって子供なのだから。俺は鶴蔵に叱られたくありませんからね。このからくりは使わない方がいいですよ」

義藤は労わるように、からくりに触れていた。困ったように佐久は頭を抱えた。

「分かっているんだけど、どうも忙しくてね。僕が使うとどうしても落としたり、蹴ってしまったり、踏みつけたり、僕にそのつもりが無くても荒い使い方になっちゃうからね」

けらけらと笑ったのは紅だった。

「佐久が壊してしまうことは、鶴蔵も承知済みさ。ちょうどいいじゃないか。鶴蔵も呼ぶといい」

言うと紅は懐から小さなからくりを出した。それは車輪のついた小さな車だった。

「おや、珍しいからくりだな。鶴蔵の新作か?」

都南が興味ありげに身を乗り出した。

「先日、鶴蔵がくれたんだ。紅の石の力で動き、迷うことなく鶴蔵のところまでたどり着く。鶴蔵のところまで行くと、使用した術士の所まで戻るらしい。――鶴蔵がくれたときにな、体を動かすのが苦手な佐久に渡す、と言っておいたのさ。佐久は鶴蔵のところまで行く段階で怪我をしてしまうからな。佐久、お前が使え。私が使うよりお前が使ったほうが鶴蔵の反応が面白いはずだ」

紅が笑いながら、小さなからくりを佐久に渡した。

「紅、鶴蔵をからかうのは程々にしておけ」

遠次が紅に苦言をしていたが、紅は一向に気にせず笑っていた。

「いつも私から逃げる鶴蔵への仕置きさ」

紅が笑いながら、からくりを佐久に手渡した。

「仕方ないね。紅が言うなら、僕が使うよ。鶴蔵は僕が持っているって思っているんでしょ。いやあ、鶴蔵が便利なからくりを作ってくれるから、助かるなあ」

佐久がからくりに自分の紅の石を仕込み、仕込まれた紅の石は赤い光を放った。紅が膝を立てて、嬉しそうに笑った。

「佐久、少しは体を動かせ。からくりは、お前が怪我をしないための補佐でしかないんだぞ。しっかりしろ。私はお前にじっとしておけなんて、一言も言っていない。体を鈍らせるな。安全な範囲で動け、と私は言っているはずだ。鶴蔵がお前のために作ったからくりだってあるんだからな」

困ったように佐久は俯き、紅はけらけらと笑っていた。

「分かっているんだよ、紅。僕だって動かなきゃいけないことぐらいね」

体を動かすことが極端に苦手な佐久が苦笑していた。

 佐久が紅の石を仕込み使用したからくりは動き始め、佐久は紅の石を取り外した。紅の石をはずされても動き続けるのだから、このからくりの制度の高さが証明されている。からくりは車輪を回転させ、障子の隙間から外へと出て行った。

 それからしばらく経ってからのことだった。

「佐久はん、入ります」

障子が開き、外には前髪の長い男が頭を下げていた。ぼさぼさの髪に、よれた着物。張り詰めた空気を和ますような場違いな男。着物の形は甚平と近い。長い前髪で目は見えない。汚れた赤い前掛け。彼も紅に近しい存在のようであった。鶴蔵を呼んでいるのだから、目の前の男がからくり師鶴蔵のはずだ。

「待っていたよ、鶴蔵」

佐久が身を乗り出した。ぼさぼさの髪の男が顔を上げ、悠真たちを見渡した。長い前髪に隠れて目は見えないが、小さな生き物のような仕草が怯えた印象を与えた。そして、体を縮めて慌てて障子を閉めた。

「す、すんません。あっし、出直しますんで」

人に会うことに照れているような雰囲気。現在、優れたからくり師がいることを悠真は知っている。野江が使う空挺丸を作り出し、紅の石から独立して動き、目的地まで辿り着くからくりを作り出した。紅の石は力であるが、使用方法は術士に委ねられている。術士が使用すると大半は戦いに利用されかねない。紅の石を動力として動くからくりがあるから、紅の石の使用幅は広まるのだ。これが、稀代のからくり師なのだと、悠真は小動物のようなからくり師「鶴蔵」を見た。

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