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一色  作者: 相原ミヤ
火の国と紅の石
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赤の決意(5)

 悠真は復讐の相手を探り、復讐をするために義藤と一緒に行かなければならない。悠真は諦めることは出来ない。選別で落ちた自分が紅の石を使える。村の復讐をすることが生き延びた理由のように思えるのだ。

「ここで諦めたら、俺は生きる意味を失ってしまう」

それが本心だった。危険でも足を踏み入れなければならない。

「小猿は愚かな上に馬鹿者だな。話を聞いていなかったのか?実力者義藤一人でも危険だというのに、小猿が行ってどうするって言うんだ?」

紅は悠真を止めようとしたが、悠真に止まるつもりは無かった。それは紅に飛び掛ったときと同じだ。このまま生きていても、悠真は何も感じることが出来ないのだ。村が滅びて、祖父と惣次が殺された復讐をすることもなく、笑うことなんて出来ないのだ。

「俺は下がれない。俺は、戦わなくちゃいけないんだ」

悠真は再び反対されることを覚悟した。しかし、何を思ったのか紅は一つ息を吐きゆっくりと言った。

「義藤、小猿の守を頼めるか?」

義藤は小さく笑った。

「断ったところで、どうにもならないだろ。紅が小猿を守るというのなら、俺は必ず小猿を守る」

諦めたような義藤の言葉が印象的だった。

「そんな無茶苦茶な」

野江が言ったが、悠真を止めることが出来ないことを感じたのかそれ以上は言わなかった。同じように紅を大切に思う都南が言った。

「小猿のことは義藤に任せよう。俺たちだって、黙って隠れているわけにはいかない。敵が襲撃するとすれば、義藤のいる紅城の最上階だろう。万一、勘良く紅の本当の居所を知れたときのために、紅は野江と一緒にいる。もちろん、赤丸を動かすのを忘れないでくれよ。義藤の言葉を借りるわけじゃないが、赤丸がいる限りよほどのことは生じないだろう。赤丸は、俺たちを超える実力者に違いないからな。俺と佐久と、野江と紅は三つに分かれて紅城を囲む。それで良いな」

野江が続けた。

「敵はきっと、闇に紛れて来るはず。義藤、あたくしたちが、あなたを援護するわ。あなたを死なせたりしないわ」

野江が静かに笑い、悠真に目を向けた。

「悠真、あなたは強くおなりなさい。大切な者を守るには、それなりの力と覚悟が必要なのよ」

野江の言葉に嬉しそうに笑ったのは紅だった。

「野江、都南、佐久、そして義藤。私の自慢の仲間たちだ。小猿も羨ましく感じるだろう。小猿が本意を成し遂げ、それでも、紅城で生きることを選ぶのなら、小猿に合わせた石を渡そう。私の自慢の仲間の下で学ぶことを認めよう。それまで、小猿は術士にならず、逃げ道を残しておけ。どんなに過酷な現実を知っても、この城で生きることを選ぶまでな」

紅の言葉に赤い羽織を着た面々は深く頭を下げた。年齢も関係ない。強さも関係ない。紅は誰よりも上に立つ強さを持つ。悠真も彼らの中に加わりたいと思った。それは、彼らの強い一体感に憧れた。彼らは何があっても紅を中心にまとまっていく。どんな困難も紅がいれば乗り越えられる。決して孤独にはならない。家族を失い、故郷を失った悠真にとって、その一体感は憧れであった。復讐を果たすと息巻く自分は、復讐がなければ孤独に押しつぶされてしまう。誰も悠真のことを知らない。誰も悠真の心配をしない。悠真が他人を思うこともない。復讐が無ければ、悠真がいるのは孤独の海。ふと疑問に思うのだ。本意を遂げたところで、悠真はどうなるのだろうか。孤独から逃れるために、悠真は彼らに加わりたいと願うのだ。加わりたいと願うと同時に、惣次や野江、そして紅の言葉を思い出すのだ。

――普通の生活をしてえ、そう思うのが普通じゃ。もしかしたら、紅もそげえ思っとるかもしれんの

――よくよくお考えなさい。紅城へ足を運ぶということは、術士になるということ。今までのような生活は送れないわ。

――それまで、逃げ道を残しておけ。どんなに過酷な現実を知っても、この城で生きることを選ぶまでな。

彼らは幾度と無く悠真に忠告した。術士になることを望んではいけない。術士になっても、待っているのは過酷な現実。それでも悠真は言った。

「俺は、強くなりたい。強くなって復讐するために」

すると、紅が悠真の前に刀を差し出した。それは、普通の黒塗りの刀。

「もって行け。むやみやたらに石を使うな。力は守ると同時に他者も傷つける。未熟な小猿はなおさらだ。小猿は今、義藤に身を委ねた。義藤に習え。義藤は強いぞ」

今の悠真に躊躇いは無い。迷うことなく刀を受け取った。目の前に敵が迫っている。村の人たちが命を落としてから、一日も経っていない。忘れることが出来ない。呆然とすることも出来ない。悠真を駆り立てているのは、強い憎しみと復讐心だけだから。


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