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一色  作者: 相原ミヤ
火の国と紅の石
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赤の決意(4)

義藤は紅を守ることを決意し、悠真は復讐を決意した。義藤が囮となり敵と接触するのなら、悠真が敵と接触する好機はその時にある。悠真が己の決意を口にする時を探っていると、ずっと黙していた遠次が口を開いた。

「紅を守るために一人で囮になり、死すことも厭わずとは……。義藤、お前の願いは、赤丸を再び表舞台へ引き出すことか?」

遠次の言葉に野江たちが不審な表情を見せた。そして、義藤は言った。

「俺は行きます。赤丸が動くのなら、赤丸が身を呈してでも、必ず紅を守る。赤丸を表舞台に引き出せるかどうかは、俺には分かりません。それは俺じゃなくて、紅や赤丸自身が決めることでしょう」

遠次は小さく笑った。

「お前は時々わしの想像を超える行動をする。十年前の子供とは別人だな。――弟の義藤は強いが優しい。お前の父が言っていたのを思い出す。とても嬉しそうに、誇らしそうに、お前の父は話していた。お前の父はお前に会ったことが無かったが、母が伝えていたのだろう。お前の母は、死すときまで子供の成長を願っていたに違いない。二人の息子は母が願い名づけた通り、紅に忠義を尽くす。行け、義藤。紅を守るのはお前の仕事だ。必ずや、お前の両親が紅と義藤を守ってくれる」

遠次が義藤の後押しをしていた。

「遠爺と義藤が俺たちに隠し事とは。遠爺は、赤丸の正体と義藤の両親を知っているのか?」

都南が言った。

「他人の過去をあさるものじゃない。お前だって、触れられたくない過去があるだろ」

遠次がぴしゃりと言い、その言葉に萎縮して、それ以上は誰も何も言わなかった。

「分かったよ、遠爺。それ以上は何も言わない。俺は義藤が行くことに賛成だ。義藤じゃなくて、俺が囮になりたいが……義藤でなければ意味が無いだろうな。紅、それしかない」

都南が言った。佐久と都南が義藤の申し出を肯定した。紅を守るためだけじゃない。正体を見せない敵の正体を知るために必要なのだ。そして、悠真にとっても必要なことだ。

「分かった。危険を恐れていては、何も手にすることは出来ない。義藤、死ぬなよ」

紅が義藤の顔を覗き込んで言った。それに対して、否定したのは野江だった。

「お待ちなさい。みすみす義藤を死なせるおつもり?義藤は必要な人よ。簡単に命を落としてはいけないわ」

野江が強く怒りで震える声で否定した。

「安心してください。俺は死にません。たとえ死んでも、もう一人の俺が現れますから」

義藤が野江に告げた言葉の意味が悠真は分からなかった。もちろん、他の人たちも同じだ。ただ一人、紅だけが不快感を露にしていた。遠次も何かを知っているらしい。それでも、無表情を演じることが出来るのは、年の功だ。悠真は自分の意志を告げる機会を探った。義藤が囮になって、官府の敵の正体を探る。それは、悠真の望んだことだ。

「ならば、私は誰かのところに泊めてもらうとするか」

紅が不満げに言った。

「俺も」

悠真は言った。義藤と一緒に行き、復讐の機会を探りたかった。好機を逃す理由は無い。

「そうだな、義藤のところに泊めてもらえないから、やっぱり佐久のところに泊めてもらうといい。都南より佐久の方が気安いだろ」

紅が言った。それは、悠真の望むこととは違う。

「違う。俺は、義藤と一緒に行く。俺は、村を滅ぼした敵の正体を探って復讐するために紅城まで来たんだ。引き下がれない」

紅が苦笑した。

「言っただろ。義藤でさえ危険なんだ。小猿が行ってどうする?」

「分かっているさ、そんなこと。それでも、俺は紅城まで来たんだ」

悠真は何を言われても考えを変えるつもりは無かった。そのためにここまで来た。そのために、生き延びたのだ。

「せっかく生き延びたんだ。なのにこんなところで死ぬつもりか?」

紅の言うことは最もで、悠真は自分の命の重みを知らない愚か者だ。無鉄砲。他者に迷惑をかける。それでも、諦めきれない。ここで諦めては、自分が何のために生き延びたのか、なぜ生きているのか分からなくなるのだ。

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