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一色  作者: 相原ミヤ
火の国と来訪者
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黒の監視(2)

 黒は官府の中へ足を踏み入れた。官府の中の空気は淀んでおり、するはずのない死臭がした。瑞江寿和が一緒だから、クロウは誰にも咎められることなく官府の内部に入ることが出来るのだ。

「我が部屋で大人しくしておれ」

寿和はクロウを豪勢な部屋に招きいれた。クロウは火の国の文化なんて分からないから、何が火の国で価値のあるものなのか分からない。しかし、クロウは、この部屋が豪華な部屋なのだと分かった。金の価値は万国共通のはずだ。火の国で赤は高貴な色のはずだ。赤地に金の飾りのある壷。権力の象徴だ。

 寿和はそそくさと、自室を後にした。火の国の文化なのだろう。木枠に紙を張った扉も、紙張りの窓も、安宿と変わらなかった。クロウは紙張りの窓から黒の石を投げ捨てた。出来の悪い、小さな黒の石は、一日だけ存在する小さな異形の者に変じた。大きさはネズミほど。小さいから屑石と呼ばれるが、小さい石は小さい石なりに使い道があるのだ。だから、クロウは出来の悪い黒の石を捨てたりしない。

 自由に動ける異形の者は、クロウの目となり耳となり、官府の中を動き回る。クロウは官府の中を知るのだ。

 瑞江寿和が殺せと命じたのは「源三」という男だ。誰が源三なのか、クロウは探した。寿和の命ずるがまま、殺すつもりはない。なぜ、寿和が源三を殺そうとしたのか、興味があったのだ。寿和が憎むということは、寿和と相対する存在。寿和が火の国を滅ぼす存在ならば、源三は火の国を救う存在だ。


 官府はいくつもの役職にて成り立っている。広い官府の内部には、いくつもの役職が建物を持ち、高官は自室を持っている。今、官府には、いくつもの派閥がある。瑞江寿和も、その中の一つのトップだが、源三もその中のトップだ。

 官府の中を動く小さき異形の者は、一人の老人を見つけた。白髪に、ゆったりと蓄えた髭が印象的な男だった。不思議なのは、男のまとう空気であった。それが「源三」であることは、クロウにも分かった。字が読めずとも、色は見える。寿和と対照的な色をしているのだ。色で分かる。この男は、寿和と合わない。寿和が殺したいほど憎んでも、おかしくない色をしている。

「これが、源三か……」

クロウは、一人微笑んだ。紅、寿和、そして源三。加えて、クロウ自身。これが、今、火の国の行く末を導く鍵を持つキーパーソンというところだろう。座布団の上に座り、書卓に向かい、分厚い書物を開く白髪の男が、それほどまでに脅威の男だとは思えなかった。しかし、ゆったりとした空気と、遠くを見る目が、源三が只者でないと示していた。それは、人を巻き込む渦のような男だ。理想と情熱を持つ者が、老いると、こうなるのだ。身体は老いても未来を見ている。クロウの目に、源三はそのように映った。

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