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一色  作者: 相原ミヤ
火の国と来訪者
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黒の監視(1)

 クロウは黒の石を手のひらの中で転がした。火の国を喰らうために、クロウが確実に火の国の内部に入り込んでいた。クロウが利用している「瑞江寿和」という男は、単純な男だ。権力に溺れ、地位に溺れ、自らのために自国を滅ぼすタイプだ。クロウは宵の国で、そのような王を何人も見てきた。そのような王がいる小国は滅ぼすの易い。

「九朗、官府へ向かうぞ」

寿和に言われ、クロウは手のひらで転がしていた黒の石をグッと握り締めた。クロウの脳裏には、イザベラを通して見た紅の姿が焼きついていた。仲間に恵まれ、仲間と歩む紅の姿が鮮烈に焼きついていた。これが、赤を色神なのかと思い知らされる。赤は強い色だ。手を噛まれないように、クロウに気を抜くことは許されない。

 寿和に連れられ、クロウは官府へ向かった。寿和に言い、クロウは黒い服を手にした。着物というらしい。どうやら、赤の国である火の国では、黒は不吉な色らしい。寿和も葬式だと言っていた。どうやら、火の国では、黒は喪を司る色。黒い服は喪服らしい。変なものだ。宵の国では、黒は花嫁の服。花婿の服。喪服は白だというのに。赤の国では、黒を不吉な色とする。クロウにとって、それは嫌な現実だった。

 馬に乗るのは容易い。動きにくい着物もさして問題はない。しかし、寿和は老齢のためか馬に乗ろうとしなかった。代わりに馬車に乗るか、二人組みの男が背負う籠に乗っていた。宵の国でも、馬に乗らない者は多い。しかし、戦乱の国である宵の国で、馬に乗れないということは、戦えないということ。それは、生きる価値の乏しいものだ。よほど、策略に長けていなければ、のことだが。クロウが見る限り、寿和はそれほど優秀な男に見えなかった。

 寿和が一緒であれば、官府に入ることは容易い。皆、クロウに対して不信の目を見せているだけだ。

「不吉な黒をまとうからじゃ」

寿和が低い声で言った。死の象徴である黒の着物が気にくわないのだ。所変われば、色も文化も変わるとは、先人もうまい言葉を作ったものだ。クロウは寿和の反応を鼻で笑った。寿和はクロウの力を欲しており、クロウから離れることは出来ない。否と思えども、目的を達成するまでクロウを庇うしかないのだ。そう、赤の色神「紅」をクロウが殺すまで、瑞江寿和はクロウを守り続ける。その醜い権力で、クロウを守り、火の国を壊滅へと導くのだ。


 自らが、国を売ったとも知らずに。

 自らの行いが、火の国を滅ぼすとも知らずに。

 色神を殺すことの罪を知らずに。

 九朗が戦乱の宵の国から来た来訪者だとも知らずに。

 クロウが黒の色神とも知らずに。


 火の国の滅亡へのカウントダウンは始まったのだ。

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