表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
一色  作者: 相原ミヤ
火の国と来訪者
196/785

藤色の潜入(10)

 義藤は、自らが歌舞伎者になれることを知っていた。毎日、自分の顔を見ているのだ。どこを、どう変えれば別人になれるのか知っている。だれも、生真面目で有名な朱護頭義藤と、内掛けを羽織った歌舞伎者を同一人物だとは思うまい。

「化ければ変わるもんだな。私は感心した」

紅は、けらけらと笑っていた。秋幸にいたっては、あんぐりと口を開いている。

「言っただろ。俺が一番適しているって」

義藤は身を翻した。

「それで、名は何とする?」

義藤が言うと、紅は笑った。

「秋幸は秋幸のままでいいだろう。そうだな、義藤は藤丸。私は義太郎とでもしておこうか。藤丸は地方のちりめん問屋の道楽息子。金を用いて、官府へ乗り込む。そんな筋書きだな」

秋幸がうなづいた。

「術士との友好を願っているのは、源三という一般登用の官吏。彼を筆頭に、数名の官吏が動いています」

秋幸が言うと、紅が秋幸の背を叩いた。

「動いている。そうだろ。あまり、気を使うな。只でさえ少ない、私の信頼出来る者たち。距離を作りたくない。第一、秋幸は義藤の古い仲間だろ。何も気にするな」

紅は目を細めて笑った。その笑いは、赤い色を周囲に放つ。赤が零れ落ち、高貴な空気を漂わせる。間違いなく、紅は赤の色神だと再認識させられるのだ。困惑した秋幸は、困惑したまま俯いた。その秋幸を紅は更に攻め立てる。

「第一、悠真は私に気遣いなんてしないぞ。あいつは、とんだ根性持ちだな。秋幸も根性を持て」

困惑しきった秋幸が哀れで、義藤は紅の肩に手を乗せた。

「あまり攻め立てるな。秋幸が困っているだろ。こういうのは、時間が掛かるんだ。野江や都南、佐久だって時間がかかっただろ。鶴蔵に至っては、今でも変わらない。お前という存在は、お前が思っている以上に、俺たち只の人間からしたら高貴で遠い存在なんだ。そうだろ、義太郎」

義藤が言うと、紅は頬を膨らませた。義太郎と藤丸なんて、どこで何の名前を組み合わせたのか簡単に分かるものだが、それも紅らしい。こんな状況でさえ、紅はかつての名の一部でさえ使おうとしないのだから。

「さあ、行くとしますか。秋幸、しっかり案内しろよ。俺は少し、無茶をするからな」

義藤は紅城と対立するように建つ官府に目を向けた。まだ、距離があるというのに、官府は威圧的に義藤らを見下ろしていた。

 なぜ、このような状況になったのか。義藤は振り返ることを止めた。結局のところ、義藤は紅の近くいるのが役目なのだ。永遠と紅を演じ続ける彼女が、ほんの一時でも自分の姿を出せるように、いつまでも変わらず近くにいることなのだ。

 歌舞伎者に変じた義藤と、男装した紅、そして巻き込まれた秋幸は、並んで官府へ足を進めた。


 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ