藤色の潜入(7)
義藤は、紅の頭を包み込むように撫でると、そっと膝を立てた。
「さて、俺もうまく化けれると良いんだがな」
義藤は笑い、うつぶせで寝転がる紅を見ながら立ち上がった。頬杖をついて、転がる紅は子供のように足をばたつかせていた。
「うまく化けろよ」
紅は嬉しそうに笑っていた。うまく化けろもなにも、変装なんて出来るはずが無い。それでも、紅に逆らえない、この己の身の哀しさを嘆くしかない。
「どういう設定で潜入するんだ?」
義藤は紅に尋ねた。官府に伝の無いものは、官府の内部になんて入れない。何かしらの身分を偽って潜入するか、赤影のように屋根裏を伝って潜入するしかない。残念ながら、表の世界で生きる義藤らに赤影のように潜入する技術なんてない。ならば、何かしらの身分を偽って潜入するしかない。
けらけらと、紅は笑った。
「本当に、腹立たしいくらい気の効く奴だな。官府に入ることが出来るのは、官吏と豪商ら地域の有力者だけ。私たちが官吏になれるはずが無いだろ」
紅は畳の上に寝転がったままだ。義藤は、桐箪笥に向かい赤い羽織をゆっくりと脱いだ。赤い羽織を畳み、箪笥の中に片付けた。
「紅、俺は着替えるが、お前はここにいるのか?」
義藤は言い、振り返った。すると、畳で寝転がっているはずの紅が、小さな寝息を立てていた。無理もない。紅はいつも紅城の中を散策して遊んでいるようで、真実は激務に追われている。紅は大きな重圧の中で生きて、年が上の赤の仲間たちを上から指示する。野江や都南、佐久でさえ言い負かすほどの強い意志を持ち、進むべき道を持っていなければ紅は立つ道を奪われてしまうのだから。理想の紅像を、強い紅を演じ続ける紅の緊張の糸が切れたとき、紅は本来の彼女に戻るのだ。今、黒の色神が火の国を狙っている。それに気づいてから、紅はどれだけの緊張の中にいたというのだろうか。もしかすると、悠真の存在を知ってからずっと、紅は警戒していたのかもしれない。緊張の糸を切れる寸前まで張り詰め続けている。
こうやって、眠っていると、紅は昔と何も変わらないのだと、義藤は再認識させられる。もう、二十歳になるのだというのに、義藤にとって、紅はいつまでも幼い妹のような存在なのだ。気が強くて、負けず嫌いで、口も達者で、学もある。年齢以上に大人びているのに、ふとしたときに子供に戻ってしまうのだ。
義藤は畳んだ赤い羽織を取り出すと、そっと広げた。そして、うつ伏せて眠る紅の背に赤い羽織をかけた。彼女以上に赤が適した者はいない。男装していても、その背の細さは紅が女性であることに変わりない。背負っているのだ。この火の国と赤を、紅は背負っているのだ。
「全く……」
義藤は眠る紅を見て思わず微笑んだ。
「手がかかるのは、今も昔も変わらない」
義藤は、箪笥を開き、紅を起こさないように着物を取り出した。