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一色  作者: 相原ミヤ
火の国と来訪者
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藤色の潜入(5)

 紅の無謀な行動に、義藤の苛立ちは頂点に達していた。紅は賢い。しかし、己の命を軽んじる傾向がある。紅は己が命を落としても、次の紅が現れる。そう信じている。確かに、次の紅は現れるだろう。次の紅は、紅の石を生み出し、火の国を豊かにする。野江、都南、佐久、遠次、鶴蔵。赤影らは新たな紅を守るために戦うだろう。それは、彼らの役目だから。しかし、義藤は新たな紅に仕えるつもりは無い。義藤は紅に仕えているのではない。目の前の彼女を守るためにここにいるのだ。

 紅を守るために強くなった。紅を守るためにここにいる。それでも、義藤の力は不十分だ。どんなに強さを願っても、義藤には限界がある。だから、野江や都南や佐久に頼るのだ。彼らの才を義藤は知っているから。今、ここで義藤が紅と共に行くよりも、彼らが紅と共に行ったほうが安全だ。だから義藤は紅から離れる。彼らを信じて、紅から離れるのだ。

「紅、俺の話を聞け……」

義藤が言いかけると、紅が言葉を遮った。

「秋幸を連れて行く」


――秋幸


思いも寄らぬ名に、義藤は思わず動きを止めてしまった。秋幸は優れた術士だ。それは義藤も知っている。しかし、ここで秋幸の名が出るとは思っていなかったのだ。この場合、旧知の仲である野江や都南、佐久を選ぶのが筋というものだ。秋幸の能力は未だ発展途上であり、鍛錬が必要な立場だ。

「お前の言いたいことは分かる。秋幸を連れて行くには早い。そう言いたいんだろ」

紅が目を片眉を上げていった。図星だった。紅はゆっくりと続けた。

「秋幸はもっと強くなる。もっとだ。隠れ術士の立場で官府に潜入し、一人で内情を探っていた。佐久と同じように、様々な色との相性が良い。何より、秋幸は実践向きだ。一見すると、あいつは佐久に似ている。だが、実際は違う。――秋幸が最も官府の内情に詳しい。内部に詳しい。加えて、官府に顔を知られていない。異論は無いだろ」

義藤は何も言えなかった。秋幸がいれば、よほどの大事がないことは確かだろう。春市、千夏、秋幸、冬彦の四人は才能溢れる義兄弟だが、秋幸と冬彦の才は今後術士を率いていくものだ。

「俺も連れて行くんだろうな」

義藤は紅に再確認した。秋幸を信じていないわけではないが、全てを任せるほど秋幸は強くなっていない。義藤は秋幸に負けを認めていないのだ。紅は不敵に笑った。

「当たり前だろ、義藤。ほら、お前も気づかれないようにしろよ」

紅に言われて、義藤は我に返った。また、紅の無茶な行動を許してしまったのだ。


――俺は、本当に駄目だな。


義藤は一人、溜息をついた。自分の短所があるとすれば、それはきっと紅に言い負かされてしまうところだろう。義藤は少年のような姿をして、嬉しそうに笑う紅に目を向けた。紅の姿を見て自然と笑みが零れるのは、きっと自分が紅に甘いからだ。紅に笑っていて欲しい。そんな義藤の身勝手な思いがあるからだ。

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