藤色の潜入(4)
振り返ったとき、そこにいるのは小柄な少年。長い髪を高い位置で一つに束ねている。
「……」
思わず、義藤は溜息をついた。頭を抱えて、膝を着いて蹲りそうな気分だった。まさか、ここまで紅がするとは思わなかった。
「紅」
そこにいるのは、間違いなく紅だった。元来、少し低い声をしている紅は、本格的に男装をすると、華奢な少年に見えてしまうのだ。もう、何年かたてば、そのような変装は出来なくなるだろうが、今のところは可能なのだから仕方ない。何とも楽しそうに紅は、けらけらと笑っているのだ。
「赤影に習ったのさ。早業の変装だろ」
義藤は思わず頭を掻いた。
「それで、野江や都南はどうやってまいた?」
唖然とする義藤がおかしいのか、紅は更にけらけらと笑った。
「私は紅だぞ。赤影が使う道ぐらい分かるものさ。ちゃんと、お前のところには来ただろ。さすがの私も、この状況で、赤丸もつけず、無茶な行動をするつもりはない。その辺り、褒めてもらっても良いと思うのだが?」
義藤は何も出来なかった。紅の前では、義藤は簡単に丸め込まれてしまうのだ。義藤の方が年齢は上なのに、義藤はいつも紅の手のひらの上で踊っているのだ。くるり、くるり、と紅を守っているのか、紅から守られているのか、分からないほどだ。もしかすると、頭の冴える忠藤ならば、もう少しまともな対応が出来るのかもしれないが……。
「どうするつもりだ?」
義藤は紅に尋ねるしか出来なかった。どんなに、紅を叱責したところで、紅を納得させるのは難しい。これが誤った思想を持つ色神であるならば、火の国は容易く滅びてしまうだろう。他人の意見に耳を傾けつつも、最終的な判断は己で下す。その責も己で受ける覚悟を決めてだ。だから紅は優れた色神なのだ。
「官府へ行く。義藤も一緒に来るだろ?」
義藤は更に深い溜息をついた。紅はここまで決めてしまっている。これ以上は、何を言ったところで無駄だ。それさえも分かっているからこそ、悔しいのだ。
「紅の石を持っていない俺が一緒に行ったところで役に立たない。野江や都南に同行を頼むんだな」
義藤は少し寂しい己の胸に手を当てた。いつも首から下げている紅の石が無い。それだけで、不安になるものだ。今の義藤は、何の役にも立たない。術で挑まれれば、敵わないのだ。
「気にするな。どうせ、相手は官府。術士はいないさ。野江や都南、佐久にはしてもらわなくてはならないことがある。あいつらには、あいつらの役があり、お前は私の近くにいるのが役だろ」
所詮、義藤は紅に敵わないのだ。
「いつ、黒の色神が攻めてくるか分からない。術士は必要だろ。お前が何と言ってもだ」
義藤は己の力の限界を知っている。術を使えない今、義藤には都南のように術を使わず戦う術が無い。
「話を聞け。義藤」
紅は手をひらひらと動かし、義藤をなだめた。その行為が、逆に義藤を苛立たせているとも知らずに。
義藤は苛立っていた。