表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
一色  作者: 相原ミヤ
火の国と紅の石
19/785

赤の決意(1)

「こんなに、楽しい茶会に義藤がいないのは可愛そうね」 

紅が悠真に惣次が使っていた紅の石を渡すという、突飛な行動をとるから、茶会は静まりかえっていた。悠真も首からかけられた紅の石の重みを感じ、赤の仲間たちの強さに押されて完全に萎縮していたのだ。その空気を打開するように、野江が微笑んだ。

「そうだね、義藤も呼んであげなきゃ。義藤は僕らの仲間だからね」

佐久が甘味をつまみながら言った。

「義藤の奴、一人残されていることを知らないのかもしれないな」

都南が渋く言い、遠次が続けた。

「紅に振り回されて、義藤も苦労が絶えぬ。呼んでやれ」

誰もが義藤に期待をかけ、義藤を大切にしているようだった。努力を惜しまぬ天才。と赤の仲間たちが義藤を認めていたのは、先刻のことだ。もちろん、悠真は義藤のことがあまり好きではない。あの抜き身の刃のような顔立ちと表情が嫌いだった。

 数刻後、義藤が荒々しく引き戸を開いて入ってきた。義藤を呼ぶと言い、使用人を走らせたすぐ後のことだった。義藤の首には数刻前に悠真が暴走させた紅の石がかけられている。悠真は、紅の石がどれだけの力を持ち、どのような可能性を秘めているのか分からない。しかし、赤は紅の石の使い方は術士に委ねられていると言った。紅の石は使い方次第で、武器にも役立つ道具にもなるのだ。手にした色をどのように使うのか決めるのは。人間なのだ。

「ああ、義藤。ようこそ」

まるで自分の部屋のようにくつろいでいる紅に、先の儚さは見えなかった。悠真はどれが紅の本当の姿なのか分からなかった。高圧的で高飛車な雰囲気、弱く儚い雰囲気、気さくで強い雰囲気、紅が全てを演じ分けているのなら、紅は火の国一番の役者だ。日ごろから、演じることが必要な立場であるのなら、紅はとても辛い境遇にあると言える。本当の紅は、どれなのか。紅に心が休まる時はあるのか、悠真はそれが気になっていた。それだけ、悠真の中に「紅」という存在が大きく居座っているのだ。憎む相手でない。尊敬する相手でもない。紅は、人の心を惹きつける魅力があるのだ。

「やはり、小猿の相手をしていたんだな」

義藤は開口一番にそう言った。

「相変わらず振り回されているな、愚痴ならいくらでも聞くぞ」

都南が気安く片手を挙げて義藤を出迎えた。部屋の主である佐久も微笑んだ。

「ようこそ、義藤。遠慮しないで入りなよ」

佐久が手招きをし、義藤は廊下に膝を折った。

「失礼します」

義藤が流れるような所作で部屋に入り座った。やはり、義藤の動作は品良く、紅が嬉しそうに義藤を出迎えた。赤い羽織も、朱塗りの刀も、義藤の力を証明している。

「渡したのか?」

義藤が紅に問うた。その一言で、悠真は義藤が言った言葉の意味が分かった。義藤の目は、悠真の首にかけられた紅の石に向けられている。この紅の石をめぐって、野江と都南が刀を握ったのは、先ほどのことだ。

「その話なら、俺たちの間で済んだ。かき乱すな」

都南が言った。悠真も義藤が激昂することを覚悟した。悠真の印象では、義藤とはそういう人のはずだ。しかし、義藤は小さく苦笑した。

「俺は反対なんてしませんよ。紅が言うのなら」

悠真は義藤が、紅の石を小猿に渡すということを認めたことが信じられなかった。義藤が紅を信頼していることは明らかだが、紅の行動全てを受け入れるはずも無い。義藤は紅の身に危険が生じることを避けるはず。ならば義藤は、彼自身の意志で悠真を認めたと考えられる。都南は紅の安全のために反対をした。野江は滅びた村を見たから悠真に力を与えようとした。ならば、義藤は何を思って紅の石を悠真に渡すことを認めたというのだ。そう思うと、義藤がとても図りがたい存在に思えた。そんな義藤は背筋を伸ばし、悠真を見た。目は強く美しい。もしかしたら、義藤は良い奴かもしれない。悠真がそう思ってしまうほどだ。

「――小猿は俺の石を使った。それでいて平気な顔をしている。と言うことは、小猿の力は大緋に匹敵するということ。その上、力を制御できず、ただ暴走させているだけ。暴走させる上に他人の石を使えるとなると、想像以上に危険な存在だ。官府に渡れば、利用されかねない。ならば、ここにいてもらったほうが小猿も安全で、官府に利用されないように俺たちが守ることが出来る。小猿自身が身を守るために紅の石を手にするのも当然のこと。術士でない小猿に紅の石を渡すことの全ての危険要素は、小猿が紅城にいることで排除できる。ここなら、この目で小猿を見張ることが出来て、何かあればすぐに止めることが出来る。小猿の力が暴走してめったなことが起きたりしない。俺も、二度も負けたりしませんよ。負けても、野江や都南、佐久が何とかしてくれるでしょう」

はっきりした。悠真は義藤から信頼されていない。義藤は悠真を危険な存在として見ているのだ。悠真は、やはり義藤はいけ好かない奴だと、思った。悠真は危険な奴だから監視しやすいようにここに残る事を許され、危険な奴だから官府の手に渡らないように守られている。そういうことだ。

「義藤も言うね。本当に、数年後はどちらかが立場を奪われているかもしれないよ。何せ、都南はそこまで考えられないし、野江だって同情で認めたようなものだからね」

佐久が拍手をし、野江と都南が悔しそうに目を背けた。悠真は赤の仲間たちが義藤の力を信頼していることが分かった。義藤は、歴代最強の陽緋と、優れた朱将に認められている。彼らの立場を取って代わるほどの天才。義藤は野江、佐久、そして都南を見渡し言った。

「まだ、引退なんてしないでくださいよ。俺は、生涯朱護でありたいんですから。まだまだ、頑張ってください」

抜き身の刀のような義藤が、丁寧な言葉を口にしたことに悠真は戸惑った。やはり、義藤は良い奴かもしれない。無骨な言葉も、抜き身の刀のような行動も、全て紅を守るため。野江は言っていた。義藤は紅が色神になり紅となる前からの知り合いだと。もし、彼女が紅となったから、紅を守るために強くなったのなら、義藤は強い心を持っている。全ては、大切な人を守るため。やはり義藤は良い奴だという結論に至った。悠真は必死に義藤の品定めをしていた。野江たち優れた術士が認める存在が、どのような人なのか気になったのだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ