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一色  作者: 相原ミヤ
火の国と来訪者
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赤の薬師(18)

 屋根を強い雨粒が叩いていた。いつの間にか、強い雨が降り始め、木戸の外には水溜りが出来ていた。外にいる赤丸は大丈夫なのだろうか、と悠真は無用な心配をしていた。

「それで、可那。あなたは何者なの?」

赤菊が可那に尋ね、可那は少し困惑した表情をして笑った。

「私は只の勤め人よ。人並みの給料を貰って、人並みに生活をしている」

悠真は単純な疑問をぶつけた。

「ねえ、じゃあ、可那の給料で葉乃は生活をしているの?」

悠真が抱く当然の疑問だ。戸籍もなく、仕事もなく、どうやって葉乃は生活をしているのだろうか。可那一人で養えるならば、可那はそれなりの高給取りといえる。すると、葉乃は笑った。

「それなりの後ろ盾があるのよ」

それ以上尋ねるな。無言の威圧が葉乃の言葉にあった。葉乃と可那。二人には、まだ秘密がある。悠真はそれを感じた。しかし、悠真や赤菊だって秘密を抱えている。自らが秘密を抱えたまま、他人の秘密を暴こうとするのは、野暮というものだ。

「雨ね」

ふと、葉乃が口を開いた。小さな身体に可那が急に立ち上がった。

「そうだ、忘れてた。私、戻らなきゃいけなかったの。ちょっと、戻ってきただけだから」

どうも、可那の行動は落ち着きに欠ける。せわしく動き、せわしく立ち回る。一時もじっとしていられない性分のようだった。

「ねえ、菊、悠真。ここでゆっくりして行ってね。また戻ってくるから」

可那はそう言い残すと、悠真は赤菊の返答を聞かないまま、雨の降る外へ飛び出した。軽く飛び上がり馬の背に乗ると、そのままの勢いで駆け出した。

「本当に、可那は忙しい性格なんだから」

薬師「葉乃」は苦笑していた。


 ここには薬師がいる。赤にふさわしい薬師だ。


 悠真は、懇々と眠る術士と犬を見た。二人が救われることを、心から願った。葉乃は、床の上を這うように移動し、瓶や箱から乾燥させた薬草を取り出し、抽出していた。

「何をしているんだ?」

悠真は、葉乃に尋ねた。

「今は雨が降っているでしょ。湿度が高い。だから、ここにある紗蔵草を加工するのに良い天気なのよ」

薬は奥が深い。悠真は田舎者だから、山に生えた数種類の野草を使うくらいだった。怪我をしたとき、熱が出たとき、基本的な薬草の使用方法は知っていても、それ以上のことは分からない。だから、悠真の故郷では些細な病で命を落とすものが多い。それは、悠真の母も同様だ。

「何種類くらいの薬草があるんだ?」

悠真が葉乃の作業を覗き込むと、葉乃は苦笑した。

「そうね、ここにあるので四百ほど。まだまだ、火の国の中には沢山の薬草があるわ。もちろん、私が知らないものもあるでしょうね。私は、ここの家の中で生きる者。外に出て、自由に動けないから」

薬師は優れた者だ。悠真はようやく、彼女がこの家の中で生きるべきでないと分かった。彼女の才能は、もっと生かされるべきなのだ。葉乃がいなければ、術士の男も犬も命を落としていたに違いないのだから。


(赤丸。赤丸の言うとおりだ)


悠真が心の中で赤丸に言ったとき、突然爆音が轟き、家の天井の一角が崩れ落ちた。家の中を埃が満たし、空いた穴から強い雨粒が落ちてきた。悠真は動けなかった。怪我がないのは、赤菊が咄嗟に紅の石を使ったからだ。

 瓦礫の中に埋もれるように赤丸が倒れていた。


――何かが起こった。


瓦礫の中で赤丸はもがいていた。悠真は動けない。

「じっとしていなさい」

赤菊の凛とした声が響いた。もがく赤丸が低い声で言った。

「黒、ここは火の国、赤の国だ。手を出させたりしない」

悠真は赤丸が誰に言ったのか分からなかった。しかし、誰に言ったのかはすぐに分かった。瓦礫を踏み潰すように、異形の者が姿を見せたのだ。


 黒が再び赤の襲撃を始めたのだ。


 赤丸は立ち上がり、異形の者の前に立った。埃まみれでも、赤丸としての誇りは消えたりしない。

「菊、逃げろ」

赤丸が言った直後、赤丸が持つ紅の石が強大な力を発した。

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