赤の薬師(17)
薬師が隠れ術士であることは、赤丸が言っていた。赤菊が握り締めた紫の石。間違いなく、赤丸が指示を出しているのだ。赤菊の言葉の後ろに赤丸がいた。
薬師の動揺は明らかだった。先ほどまで、薬師が赤菊を追い詰めていたように、次は赤菊――いや、赤丸が薬師を追い詰める。
「私たちが、あなたが隠れ術士であることに気づいていないと思ったの?私たちは一流の術士。幼い頃から術の中で生きてきた。術士独特の一色を見ることなんて、容易いことよ」
赤菊は言ったが、悠真には術士と普通の人の一色の違いなんて見えない。本当は、赤菊も薬師が術士であることに気づいていなかったようだから、術士を見分けるのは赤丸の特技なのかもしれない。
「隠れ術士から文句を言われる理由はないわ。私は、加工された紅の石を持つ正規の術士なのだから」
赤菊の言葉は端的で、何よりも説得力があった。赤丸の秘めた強さがあった。
「術士を見分けることが出来るなんて……」
薬師が何ともいえない表情をしていた。術しか否かを見分けることが出来るのか。それは、悠真にも分からない。ただ、赤丸が見分けることが出来ているのは明らかなのだ。それが、赤丸の特技なのかもしれない。
「それが出来る人もいるのよ」
赤菊は言った。どうやら、それは赤菊の本心の言葉のようだった。赤菊の一色が穏やかだからだ。張り詰めた緊張感は無い。薬師が自嘲気味に笑った。
「それで、隠れ術士の私をどうするつもり?正規の術士にするところで、私は戸籍を持っていないし、第一、この身体じゃ何の役にも立たないでしょ」
赤菊は首を横に振り、膝を床について視線の高さを薬師に合わせた。
「ある人が言っていたの。誰も否定される理由なんてないの。もし、あなたが否定されるなら、赤の術士たちがあなたを守る。紅があなたを守る。そして、あなたが紅と赤の術士を守るの。今は、いろいろあって騒がしい時期だけれど、あなたを紅城に招く。あなたが拒んでも、私たちはあなたの力が必要だから、あなたは術士の才覚に恵まれた者として逃げることが出来ないのよ」
それは、赤丸が赤菊に言った言葉だった。赤丸の穏やかな色が、赤菊の言葉を通じて広がっていく。影で生き、影で死んでいく赤影の筆頭である赤丸であっても、持つ赤色は表も裏も関係ない。彼の色は、誰にも引けをとらず、誰にも否定だれるものでなく、表も裏も関係ない明るさを持っていた。
「葉乃よ」
ふと、薬師が口を開いた。そして、薬師は強い目を悠真を赤菊に向けて言った。
「私の名は葉乃。異質な容姿に世間から見捨てられ、ここで薬師として生きている。皮肉なことに、こんな私が術士の才覚に恵まれた。望まなかったといえば、嘘になるわ。私は、表の世界で、誰にも否定されることなく生きたい。私の真の願いはそんなことよ」
薬師葉乃は、強い女性だ。