赤の薬師(16)
赤菊が術士であることに間違いは無い。赤影である彼女は、紅の石の力を引き出す術士の才を有しているのだから。一つ、違うとすれば赤菊が表の世界の術士でないことだ。赤菊は裏の世界で生きる赤影なのだから。
術士であるということに、可那も薬師も何とも言えない反応を示していた。
「なぜ、術士がこんなところに?まさか、この人も術士なの?」
気ぜわしい性格だろう可那が、目を見開いていた。どうやら、可那は信じたらしい。しかし、薬師は違う。信じようとしていなかった。薬師は疑念に満ちた目で赤菊と悠真と術士の男を見比べていた。信じていない薬師は、答え難い質問をぶつけてくる。
「術士なら、なぜ紅城に帰らないの?紅城にいる紅様に助けを求めればいいじゃない?」
床に座ったままの、薬師は鋭い目で赤菊を見上げていた。
薬師の言うことは最もだ。ここに術士がいるとする。術士であることを証明するのは容易いだろう。赤菊が少し術を使って見せれば良いのだ。術士の男が隠し持っている石を見せれば良いのだ。――しかし、術士であるのに紅城に帰ることが出来ず、嘘をついてまで得体の知れない薬師に助けを求める。その上、一人は深手を負い、毒に身体を犯されている。術士を追い詰めることが出来る存在がおり、術士は負けた。逃げているのだ。これが、人より優れた力を持つ術士の姿なのだろうか。誰しもが術士を尊敬するからこそ、術士は負けることが許されない。赤菊は返答出来ずにいた。ふと、悠真が赤菊を見ると、赤菊は紫の石を四つ持っていた。赤菊が握り締めた紫の石は、ばらばらにならないように紐でつながれていた。まるで、赤菊は紫の石に答えを求めているようだった。
「本当に、正規の術士なの?世間には、隠れ術士がいるっていうじゃない?あなたたち、色神紅様に認められていない隠れ術士なんじゃないの?」
薬師は淡々と赤菊を追い詰めていた。
「葉乃、止めなよ」
可那が薬師を止めていたが、足の無い薬師は止まらない。
「黙っていなさい、可那。隠れ術士は危険な存在よ。鎖の無い人喰い獣を野に放つようなものなのだから」
薬師は手で這うようにして赤菊に詰め寄っていた。紫の石を握り締める赤菊。そして、赤菊に詰め寄る薬師。すう、と赤菊が大きく息を吸った。そして、言い放った。
「――あなたでしょ」
一言、赤菊は言い放った。もちろん、悠真は赤菊が何を言っているのか分からなかった。明らかなことは、赤菊の言葉が強いということだ。それは、赤丸の言葉のようであった。
「何が?」
薬師は一つ赤菊を睨んでいた。赤菊は一つ息を吐くと、再び続けた。
「隠れ術士はあなたでしょう?こんなところに隠れて、一人、術士としての才を隠し続けているのね。あなたは術士としての才能を持っている。あなたも分かっているんじゃない?もしかして、自らの才能に気づいていないの?私の持っている紅の石は加工されているから、他人が使うことは出来ないけれど、何なら加工されていない石を探してきてもいいのよ。使ってみれば、はっきりする。あなたは隠れ術士」
理性的に、理詰めで相手を追い詰める。それは、赤丸のようであった。