赤の薬師(11)
赤影は暗殺を生業とする紅の刃。世界の裏の存在だ。その赤影の筆頭である赤丸が、何とも穏やかな人だから、悠真は変な感じがした。赤丸が柔らかく微笑むから、変な感じがするのだ。
結局、赤菊の登場により悠真は術士の男の正体を聞き逃してしまった。しかし、想像はつく。赤影の一人だろう。そして、もう一つ、犬のことについても尋ねそこなったが、犬も赤影の一人なのだろうと、勝手に解決をした。まあ、機会があれば確認すれば良い、そう思ってしまうほど、赤丸と赤菊の間を邪魔したくなかったのだ。野暮な田舎者のようなことをしたくない。一端の洗練された大人になりたい、そんな理想的な思いからだ。
悠真は立ち上がり、赤丸と赤菊の前に立った。すると、赤丸は柔らかく微笑み、そっと赤菊に尋ねた。
「二人はどうだ?」
赤丸は赤菊に尋ね、赤菊は俯いた。
「怪我自体は、二人とも何とかなりそうです。星が重症ですが、星は頑丈ですから。ただ、気になるのはやはり毒です。それについては、薬師の力量でしょう」
赤菊は建物の方を向き、同様に赤丸も建物に目を向けた。
「やはり、そうか……。菊から見て、あの薬師はどうだ?」
赤丸は薬師に興味があるのだろう。
「少々屈折していますが、私から見る限り本物です。名だけ名乗っているような、薬師ではありません。基本知識だけでなく、薬草の細かな性質や草それぞれによる成分の量まで測っている。あれは、天性のものでしょうね。あの薬師をどうするのですか?」
赤菊が尋ねると、赤丸は苦笑した。
「あの薬師は危険だ。時期を見て、紅城へ連れて行くしかないだろ。最低、紅に存在を知らせなくてはならない」
赤菊も納得していないようだった。
「なぜ、薬師が危険なのですか?」
赤丸は赤菊の横を通り、そっと彼女の肩を叩いた。
「あの薬師は術士だ。おそらく、戸籍を持っていないのだろう。選別も受けていないはずだ。力の程度ははっきりしないが、隠れ術士であり、薬師として一流だ。ここに隠くれて良い存在ではないだろ。術士でなくても、薬師は紅に必要な存在だ。仲間を失わないためにもな」
まるで、赤丸は薬師を利用しようとしているようだった。力があるから使う。それは、赤丸らしくない。いや、悠真はあまり赤丸のことを知らない。義藤と同じ顔で、そのようなことを言って欲しくなかった。他人を利用することなど、義藤にして欲しくない。同じ顔をしているからこそ、赤丸にもして欲しくないのだ。
悠真はあまり薬師と話をしていない。しかし、薬師の一色を見た。異質な外見。森の中に生きる薬師は、これまでどのような生活を送っていたのだろうか。想像するに容易い。
戸籍を持たず、森の中で隠れて過ごす。人から逃げて生きるのは、人が異質を拒むからだ。拒まれ、隠れて生きていたのに、それを赤丸が乱そうとする。利用しようとする。そんなこと、して欲しくなかった。薬師は、このまま隠れて生きるべきなのだ。