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一色  作者: 相原ミヤ
火の国と来訪者
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赤の薬師(10)

 赤丸はおもむろに、足元にあった小石を拾って森に向かって投げた。

「誰も死なせない」

唐突な赤丸の言葉は悠真に向けられたものでなく、彼が彼自身に言った言葉であった。

「誰も死なせない」

もう一度言ったのは、強い決意の証拠だ。もう一度、赤丸は適当な小石を拾って投げた。悠真が赤丸の色は、優しいがとても強い色だった。

「大丈夫、誰も死なないよ」

先ほど、赤丸が悠真に言った言葉を、今度は悠真が赤丸に言った。何も出来ずにやきもきしているのは悠真だけでなく、赤丸も同じなのだ。赤丸は、はっと悠真を見て、そして抜き身の刃のような顔で苦笑した。

「そうだな。これ以上仲間を失ってたまるか。赤影も生きているんだからな」

赤丸はそこまで言うと、立ち上がった。そして、高い位置から座る悠真を見下ろした。赤丸の表情は逆光であまり見えなかったが、彼が悲しんでいることは分かった。仲間が傷ついたことに悲しんでいる。

「ねえ、赤丸。あの術士の男は何者なの?赤影の一員なの?」

悠真は赤丸に尋ねた。あの、術士の男は何者なのか。そのことが、悠真はずっと気になっていた。悠真に巻き込まれる形で戦い、傷ついた術士の男。大きさが特徴的な人だ。彼がいなければ、悠真は死んでいた。悠真から赤丸の表情は見えない。ただ、赤丸の色が翳ったのは分かった。

「彼は……」

赤丸がゆっくりと口を開いたとき、扉が開く音が響いた。直後、悠真が確認するよりも早く、赤丸は姿を消してしまった。身軽にもほどがある、というほどだ。


 外に出てきたのは、赤菊であった。赤菊は血で汚れた手を、濡れた手ぬぐいで拭いていた。彼女が不安げに辺りを見渡しているのは、誰かを探しているからだ。もちろん、探し人は悠真でない。

 再び屋根の上から姿を見せた赤丸は、何も言わずに赤菊に歩み寄った。

「頑張ったね、赤菊」

一言、赤丸は言い、赤菊の頭を軽く叩いた。何の違和感も無い、優しい赤丸の仕草だ。悠真より少し年上であろう赤菊は、はっと頬を赤らめ、俯いてしまった。

「赤丸、私は、とても不甲斐ない赤影です。赤丸が紫の石を通じて指示を出してくれなければ、私はなにも出来ませんでした。命を落とそうとしている仲間を、見ていることしか出来ませんでした」

赤菊は静かに言い、赤丸は首を横に振った。

「菊は生粋の赤影だからね。仕方ないよ。俺のように半端な赤影じゃない。両親を共に赤影に持ち、生まれてからずっと赤影として生きてきた。赤影以外の者と、まともに言葉を交わすのは初めてだったんだろ。そりゃあ、怖くて当然さ。そんな中、菊は頑張った。大丈夫、誰も死なないよ。死なせてたまるものか。十三年前の戦い、そして二年前の戦い。多くの赤影が命を落とした。菊の父も母も、そして俺の母も同じだ。俺たちは生きるんだよ。紅と一緒にね」

赤丸は柔らかく微笑んだ。

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