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一色  作者: 相原ミヤ
火の国と来訪者
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赤の薬師(9)

 悠真はわけも分からず、言われるがままに動いた。物を取ったり、運んだり、最終的には建物から外に追い出された。赤菊と薬師は術士の男から先に手当てをしていた。命は平等だと言うけれど、人の命と犬の命であれば、人の方が重いのは当然なのかもしれない。


 外に追い出された悠真は、建物の影にもたれた。

「頑張ったな」

突然、屋根の上から声が響いた。当然のようにそこにいたのは、赤丸だった。赤丸は身軽な動作で容易く悠真の横に飛び降りてきた。

「赤丸?」

悠真が言うと、赤丸は柔らかく微笑んだ。

「心配するな。菊は赤影の中の医師。まだ若いが、菊の父と母は戦いで傷ついた仲間を治療し続けた優れた医師だった。その知識を菊は持っている。だから、信じろ。あの薬師が本物の薬師ならば、助かるかもしれない。紅は、怪我をした者がいるかもしれない。そんなことまで予想して、俺だけでなく菊まで悠真の救出に向かわせたのだから」

赤丸の言葉は、優しく柔らかかった。

「じゃあ、赤菊は医師なんだね」

悠真はどこか安心した。医師と薬師がいるのなら、赤が消えることは無い。

「菊は医師だ。そして、あの薬師は本物だろう。まさか、こんなところに優れた薬師がいたなんて、誰も知らなかっただろうな。加えて……」

何かを言いかけて、赤丸は微笑んで言葉を止めた。不信に思う悠真をよそに、赤丸は柔らかく微笑んだ。

「安心しろ」

赤丸は、優しいが強い人だった。


 赤丸は、じっと悠真の隣にいてくれた。それは、義藤と同じだった。彼らは、やはり双子なのだと悠真は教えられたような気がした。同時に、赤丸が赤影の一員となった理由も気になった。裏の存在である赤丸の近くにいれることは、滅多にないことだ。

「赤影でいることって、辛くない?」

悠真は自分でも分からないうちに、赤丸にそのようなことを尋ねていた。赤影は辛い存在だ。悠真が常々そう思っていたことと、赤丸があまりにも優しい色を持っているから警戒心が解かれてしまったための結果だ。赤丸は驚いたように目を見開き、それでも悠真を叱責することもなく柔らかく微笑んだ。

「辛くない、と言えば嘘になるかな」

赤丸はそう言うと、ゆっくりと息を吐き悠真に尋ねた。

「悠真は、赤影のことを辛い存在だと思うのか?」

言い逃れの出来ない空気がそこにあり、悠真は頷いた。

「赤影は身を犠牲にするだろ。影で生きて、影で死んでいくんだから。自由がないなら、囚人と同じだ」

そこまで言うつもりは無かったのに、悠真の口は勝手に動いていた。赤丸の反応は、とても淡白だった。

「そうだね。赤影は囚人と同じなのかもしれない。でも俺は、赤影になったことを後悔していないし、二度と表の世界に戻るつもりも無い。義藤は、己が死ねば俺が義藤の代わりに俺が表に戻ると思っているかもしれないが、俺は赤丸だ。忠藤じゃない。己が望んでそこにいるのなら、囚人でないだろ。あの、薬師と同じだ」

その言葉には強い決意と覚悟があった。彼は赤丸だ。術士として駆け出しで、剣術もまともに使えない夕までも、赤丸が優れた存在であると言うことは分かっていた。陽緋野江とも、朱将都南とも、義藤とも違う空気を赤丸は持っているのだ。

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