表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
一色  作者: 相原ミヤ
火の国と来訪者
176/785

赤の薬師(8)

 術士の男と犬は確実に弱っている。くつくつと、何かが破裂するような呼吸音が恐ろしかった。傷口から流れる血の色が黒っぽいのが恐ろしかった。

「助けてくれ」

なぜ、こんなことを口にしているのか悠真は分からなかった。けれど、すがるしか出来ない。二つの命の火を灯し続けるには、薬師に頼るしか出来ないのだ。

「助けてくれ!」

悠真はいても立ってもいられず、床の上に膝をついて薬師に近づいた。近くで見た薬師は、足がないことを除けば普通の女性だ。気づけば、薬師の肩を掴んでいた。悠真よりも、遥かに年上だろう薬師は困惑していた。

「私に足があったら、足を踏んでいるわよ」

薬師はさらりと言うと、手で身体を持ち上げ、お尻で歩くように悠真から離れて言った。

「無視して。見捨てようなんて、そんなことじゃないの。本当のことよ。私は薬師。薬を作ることなら、誰にも負けないけれど、私は医師でないの。傷口を縫ったり出来ないし、心臓がどう動いているだとか分からないのよ。だから、本当に助けたければ、医学の知識を持った者が必要なのよ」

薬師は苦笑していた。

 どうすればいいのだろうか。悠真は分からなかった。紅城に戻ることも出来ず、紅に助けを求めることも出来ない。たまたま出会った薬師は、医師がいなければ助けられないと言う。千夏がいれば、解決策が見つかるかもしれないのに、ここに千夏はいない。いるのは、無力な小猿「悠真」と、赤影の一員「赤菊」だけだ。

「本当に、あなたは一流の薬師なの?」

赤菊が唐突に口にした。すると、薬師は低いところから赤菊を見上げて強い言葉で返した。

「さあ。どうでしょう?私はこの通り、外の世界にあまり出たことがないから。でも、この家で、ずっと薬と向き合い続けてきたの。その時間は真実よ」

悠真は、薬師の色に偽りを見つけることが出来なかった。

「私が診るわ」

赤菊が一言呟くと、術士の男の横に膝を着いた。

「え?」

薬師が困惑していた。それは、可那も悠真も同じだ。すると、赤菊は着物の袖を襷で捲し上げると、言ったのだ。

「医師が必要なのでしょ。私が診るわ。傷の縫合もするし、全身管理もする。私がこの二人を助けることが出来ないのは、解毒するための薬がないから。作ってくれるのでしょ?助けるための薬を」

赤菊の色が強まった。真実、赤菊は医師なのだろう。

「悠真、外に出て湯を沸かしてきなさい」

赤菊は落ち着いた言葉で悠真に命じ、悠真はどうすれば良いのか分からず立ち尽くした。

「薬を作るわ。毒に犯されているのなら、まず毒と相性の良い薬を探すわ。出来る限りのことはするわ。可那、左戸棚の綴草を取ってちょうだい」

何が起こったのかわからないが、ここに薬師と医師がいる。悠真は、一筋の希望の光を見つけたのだ。赤をまとった薬師は、赤に惹かれる悠真に安心感を与えた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ