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一色  作者: 相原ミヤ
火の国と来訪者
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赤の薬師(7)

 薬師は床に座っていた。座っていたという表現が正しいのか、悠真には分からない。薬師は床の上に腰を据えていたが、そこにあるべきものが無かった。薬師の着物から足は無かった。

 足という表現をするのなら、着物の裾から足のようなものはある。極端に短く、細く、小さかった。まるで、生まれたての赤子の足のようで、大人の身体を支えられるようなものではない。だから、薬師は床に座り、手で這うように室内を移動している。

「それで、可那。一体、何がどうしたの?」

薬師は低いところから、突然の来客者である悠真たちを見上げていた。

「薬を作って欲しいの。この、人たちを助ける薬をね」

可那は言うと、馬の上に力なく身を投げる術士の男を指した。直後、馬が再び膝を折った。悠真は田舎者だから、あまり馬を見たことが無い。見たのは、農耕馬ぐらいなものだ。もちろん、紅城には都南や野江たちの馬がいる。きちんと調教された、立派な馬だ。筋肉の発達した、美しい馬だ。この馬は、それほど鍛えられた馬のように見えない。しかし、恐ろしいほど賢いのだ。まるで、悠真の背中にいる犬のようだった。

「中に運んでちょうだい」

薬師は言うと、両手で這うようにして奥へと進んだ。


 薬師は部屋の中にござを敷き始め、悠真はその上に犬を寝かせた。犬はぐったりとして、息をしているのか不安になるほどだ。薬師の奇妙な両足が気になったが、あまり見るのも失礼だというもので、悠真は出来るだけ素知らぬ顔で馬から術士の男を下ろす手伝いをした。


 男手だから、悠真はここで頑張らなくてはならない。術士の男の脇に手を入れると、力いっぱい引っ張った。馬が大人しくしているから、何とかなるのだ。大柄な術士の男の身体を、悠真と赤菊と可那の三人で引きずって建物の中のござの上に寝かせると、悠真はようやく一息をつくことが出来た。

 小さな建物の中には、沢山の薬草が置いてあった。乾燥させたもの、水につけたもの、悠真には何が何の薬草なのか分からなかった。目のやり場に困り、部屋の中を見渡すのは、薬師を見ることが出来ないからだ。

「何があったの?可那?」

薬師は可那を問いただしていた。問いただしながらも、部屋の中を這うように移動しながら、様々な薬草を集めている。薬草をすりつぶす石臼、抽出するための囲炉裏、薄暗い建物の中は作業場といったところだ。

「ここに帰っていたら、黒い化け物を見てね。もしかして、と探していたら襲われた人がいたってわけ。葉乃なら、助けられるでしょ」

慌しく、転がるような口調で可那は薬師に説明していた。要領を得ないのは、彼女が説明下手なのではなく、彼女がせっかちだからだろう。

「馬鹿ね。私は薬師であって、医師ではないの。出来る限りのことはするけれど、助けたかったら医師の所へ連れて行きなさい」

葉乃は薬草を集めながらも、冷たく突き放した。他者を拒絶するのは、このような森の奥深くに住んでいるためなのか、異質な外見のためなのか分からなかった。ただ、今はこの薬師にすがるしか出来ないのだ。

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