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一色  作者: 相原ミヤ
火の国と来訪者
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赤の薬師(4)

 顔を覗かせたのは、おかっぱ頭の女性だった。とても小柄で、小さな印象だった。女性は身体に比べて大きな馬から落ちるように下りると、慌しく悠真たちに駆け寄った。

「ねえ、大丈夫?黒い化け物が飛んでいるのを見て、慌ててきたんだけど、やっぱりあの化け物に捕まっていたのね」

慌しく早口で女性はまくし立てた。

「あ、怪我をしているのね。大丈夫なの?」

悠真たちの言葉を一言も聞こうとせず、女性は倒れている術士の男に駆け寄った。

「ねえ、大丈夫?」

声は甲高く、子供のようだった。小柄な女性はすばやい動きで首を振り、悠真たちを見比べた。

「あなたたちは、大丈夫?怪我はない?」

女性は悪い人でないらしく、困ったように首をかしげた。

「怪我はない?」

再び尋ねられ、悠真は慌てて答えた。

「大丈夫だけど……」

悠真が言うと、女性はぱっと笑った。まるで、花が開いたように笑う女性の笑顔は、太陽のようだった。女性は微笑み、そして相変わらずの早口の口調で言った。

「良かった。怪我をしているのは、この人と犬ね。連れてくわ」

悠真は女性が何をしようとしているのか分からなかった。ただ、女性が術士の男を抱えようとしていた。子供のように小柄な女性が、熊のように大きな男を抱えようとしている。それは、誰が見ても不可能なことだった。しかし、女性は一刻もじっとできない性分のようで、なんとか術士の男を抱えようとしていた。

「ねえ、何を?」

悠真は戸惑い、女性に尋ねた。しかし、女性は悠真の言葉など耳に入っていないようだった。困った悠真は、赤影の一員である赤菊に答えを求めたが、彼女は怯えるように顔を青くするだけだった。よくよく見ると、赤菊の手は小さく震えていた。何に怯えているのか、悠真には分からない。もしかしたら、この小柄な女性は敵で、だからこそ赤菊は怯えているのかもしれない。そう疑ってしまうほどだ。

 しかし……、悠真には小柄な女性が悪い人のように思えなかった。早口で動き続ける、一刻もじっと出来ない性分。笑った笑顔は、花開くようで、悠真は悪い人のように思えなかった。それに、悠真が見た小柄な女性の一色は、明るい色だ。曇りない空のようで、道端に咲く花のようで、悠真は嫌いでなかった。

 なぜ、赤菊は動きを止めてしまったのか。悠真は分からず、赤菊が動かないから悠真も動けなかった。一人、小柄な女性が術士の男を抱えようと奮闘していた。


「ぴーぴー」

笛が鳴くような音がして、悠真は辺りを見渡した。すると、倒れている犬が目を開いて鼻を鳴らしているのだ。

「犬!」

悠真は横たわる犬に駆け寄った。犬は胸を上下に動かし、呼吸をしながら、黒い目は赤菊を捉えていた。はっと、赤菊は犬を見て目を細めた。

 赤菊は犬に駆け寄り、そっと犬が背負っていた荷物を犬の近くに置いた。直後、犬は開いていた黒い目を、再びゆっくりと閉じてしまったのだ。

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