表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
一色  作者: 相原ミヤ
火の国と紅の石
17/785

赤の茶会(4)

――殺される

悠真は直感した。辺りを見渡すと野江も刀の柄を握り締めていた。悠真の存在と、紅の突飛な振る舞いが赤の仲間たちを混乱させ、混乱した彼らは、互いに刀に手を伸ばした。日ごろから戦いの中に身を置く彼らだからこそ、行動に迷いはなく、己の信念を貫くために命を懸けるのだ。

 術士でなく、術士の選別で術士の才覚を見出されなかった田舎者の悠真。この紅城で悠真の目的を達成するには紅の石の力が必要だが、紅の石は強大な力を持つ剣であるからこそ、赤の仲間たちは悠真に紅の石を与えることに反対するのだ。野江が何のために刀に手を伸ばしたのか分からない。朱将を力で止めるには、陽緋の野江が動くしかないが、野江が悠真の味方である保障もないのだ。この場にいる実力者たちが、混乱しているのは事実で、悠真は混乱を抑える力である唯一の存在であるはずの紅に目を向けた。紅は苛烈な目で都南と野江を見ていた。どうやら紅は野江が刀に手を伸ばしたことに気づいているようだった。

「そんなことが許されると思っているのか?術士でもない小猿を信頼し、強大な力を与えるのか?」

都南の声はとても低い。その声は苛立ちを隠しきれていなかった。苛立ちは、悠真に紅の石を受け取るように言った野江に向けられていた。

「あたくしは見たわ。破壊された村を、死んだ惣爺を。復讐が許されるのなら、あたくしが手を下してやりたいぐらいよ。術士でないなら、いずれ術士になれば良いということ。悠真には力が必要なの。生きるために、己の道を示すためにね。都南に言われずとも、あたくしは紅の石の力を知っているつもりよ」

野江の言葉も強い。悠真は身を縮めることしか出来なかった。無鉄砲に走り出す隙さえなかった。彼らは戦いの才を持ち、平和な火の国の中で命を危険にさらしながら最前線で戦っている。野江も都南も強い力を持っている。その二人が苛立ちを露にしているのだ。

「二人とも、牙を抜きあうのなら、それなりの覚悟をしてもらおうか」

二人を制すように遠次が言った。彼は紅の石や朱塗りの刀に手を伸ばすことはしなかったが、発する言葉の一つ一つに深い威厳が含まれていた。遠次は彼らの中でそのような立場にいるのだ。赤い羽織を着た彼らを導く。守る。それが遠次。惣次もこのようにしていた。思うと、惣次がとても遠い存在に思えた。優れた人たちを一喝する。惣次もそのような立場にあったのだ。思い出せば、惣次は怒らせると、とても怖いと子供たちが噂していた。遠次は赤の仲間たちの父のような存在なのだろう。彼らに確かな道を示す存在なのだ。

 そんな険悪な雰囲気の中、悪気なく、場の空気を読まないように紅が笑った。

「いい加減にしないか、野江も都南も。遠爺の言う通りだ。こんなところで、そんなくだらないことで刀を抜くな。二人が争ったところで、私の前では何の意味も成さないぞ。私はお前たちよりも強いからな。都南、おとなしく聞け。お前たちと同じように私も惣爺には返しきれないほどの恩がある。惣爺がいたから、私は紅として身を守るだけの強さを手にすることが出来たし、二人だって陽緋と朱将になれただろ。滅多なことは起こらない。惣爺の目と、私を信じないか?」

紅は続けた。

「お前たちの言いたいことは分かる。惣爺が認めた小猿を信頼するのと、石を渡すのとは違うということだろ。そんなこと、分かっている。それにな、惣爺の石は限界に近い。もう数回使えば、色を失い、力を失う。小猿が石を持って逃げたところで、何の悪さも出来ない。小猿の身に危険が近づいたときに、小猿を守る力をくれるぐらいさ。惣爺の石は私の時代の石だ。小猿が悪さをしたところで、私は気づくことができる。いつ、どこで、どの程度の力が使われたのか、がな。小猿がどこにいるのか分かるのさ。だから、なにも案ずるな。私を信じろ」

紅が笑い、同時に紅から赤い色が零れ落ちた。人は皆、己の色を持つと言われている。悠真は赤の仲間たちをを見比べた。皆、赤い色に近しい色を持っているが、それぞれに個性がある。その中で、紅の赤は最も鮮烈で、最も強く、最も美しい赤色だ。悠真の前に現れる「赤」と同じ赤色を持っているのは、紅が色神だからだろう。

 官府は紅に、紅自身の石を差し出すように要求してきた。それは、紅の石の監視を止めること。悠真の目の前にいる紅が、色神となってから十年が経ち、先代の紅が生み出した石は減ってきたはずだ。現に、赤の仲間たちの紅の石は、すべて悠真の目の前の紅が生み出した石だ。紅の石は強大な力を持つからこそ、悪用しないように監視が必要なのだ。悠真はそれを理解した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ