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一色  作者: 相原ミヤ
火の国と来訪者
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黒の策略(7)

 クロウが官府と思われる初老の男を制すと、初老の男は声を荒げた。

「そこをどけと言っているんだ!儂が誰か知っているのか!」

男は苛立ち、叫び、地団駄を踏んでいるようであった。

「誰か存じません。こんな夜半に無断で宿に入るなんて、普通じゃない」

クロウが言うと、男は更に声を荒げ、その声に宿に泊まっていた者だけでなく老婆まで置きだしてきた。

「官吏に対し、なんという口ぶりじゃ!この愚か者目が!」

老婆が不安そうに顔を覗かせていた。

「いくら、官吏殿とはいえ、失礼にも程があります。今の時刻をお考えください」

クロウが言うと、男は紙を取り出した。薄い紙には字が書かれているが、もちろんクロウには読めない。

「ここは、官吏の保養所の建設予定地になっている。五十歳以下の者が家族にいれば、新たな家の提供はあるが、ここの主は高齢だから無い。荷物をまとめて出て行け」

老婆は悲鳴を上げた。

「ここから追い出されたら、食っていけねえ。家もねえ、仕事もねえ、どうやって生きていけって言うんじゃ」

老婆が言うと、官吏の男は紙を台に広げた。

「老人収容施設が都の外に建設される。そこにでも入るんじゃな。どうせ、身寄りも財産も無い老婆。官府の命に逆らうのか?」

老婆は泣いていた。逆らうことが出来ない。そういうことだろう。イザベラが建物の外にいた。イザベラに官吏を喰わせても良い。しかし、クロウは閃いたのだ。探していた糸口を見つけたとも言える。クロウはそっと官吏に近づき、耳打ちをした。

「権力が欲しいなら、力になる。黒の石と黒の石を使える術士が欲しくないか?」

クロウが囁くと、官吏の男は目を見開いた。

「ちょっと、田舎で闇貿易をしていてな。黒の石数個を手に入れた。それに、俺は術士だ。力になるぞ」

男は驚いているのか、何も言わない。

「ただ、条件がある。この宿は諦めろ。それが、俺が協力する条件だ。悪くない話だと思うが?」

男はゆっくりと口を開いた。他に聞こえないように、囁くように、ゆっくりと。

「本当の話なんだろうな。黒の石を見せろ」

男が答えると、クロウは懐から石を取り出し、そっと見せた。


――黒の石。


黒の石があれば、強大な力を手にすることが出来る。権力を望むものは、誰しもが黒の石を望む。攻撃的で、破壊する力を持つ石。それが黒の石だから。


「なるほど」

男は言った。

「一緒に来るんだ」

男が言い放ち、方向を変えた。老婆は心配そうな表情をしている。

「今まで世話になった。また、立ち寄るから、それまで元気で店を続けてくれ」

クロウは老婆に言った。この宿を守ったのではない。クロウは、紅へ近づく糸口を探すためにクロウは官吏に近づいたのだ。


 近づいた男の名は「瑞江寿和」という。

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