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一色  作者: 相原ミヤ
火の国と来訪者
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黒の策略(6)

 夜半、クロウはイザベラを夜の闇に飛ばした。イザベラは闇に溶ける。下手をすれば、紅に気づかれるが、無色を捕らえる機会を探さなくてはならない。無色は紅の近くにいる。赤の術士が護衛についているはずだ。しかし、紅城に入ることは出来ない。紅に気づかれてしまっては、元も子もない。しかし、官府にはら入ることが出来る。官府に術士はいないのだから。

 イザベラの見た官府は、腐敗が進んでいた。私利私欲を求める者、真面目に理想を追い求める者、二つの勢力が敵対し、官府の内部においても見えない火種を抱えていた。

「これが官府の内部と言うものか……」

クロウは、布団に横たわり、天井を見上げていた。その目には官府の内部の映像が見えていた。


――クロウ、クロウ。


突然、黒に呼ばれてクロウは飛び起きた。黒は、それ以上何も語らない。ただならぬことが生じようとしているのだ。それだけは、はっきりとしていた。飛び起きたクロウは、隠し持っていた剣を持ち、階段を駆け下りた。夜の闇の中、明かりは消されており、月の薄暗い明かりの中でクロウは動いた。老婆は床についているのか、姿は見えない。誰もが寝静まったような闇の中、宿の入り口の木扉がゆっくりと開いた。


 クロウは、イザベラを呼び戻した。同時に、自らが生み出した石を握りしていた。宵の国にいようが、火の国にいようが、クロウである限り、一日一つの石を生み出すことが出来る。火の国までの旅の間、そして火の国についてからもクロウは石を生み出し続けていた。石には質の良し悪しがある。もっとも、信頼できるのはイザベラであるが、イザベラが離れている以上、クロウには普通の黒の石を使うしかない。

 クロウは色神である前に、宵の国の小国、ラエ国の軍を率いていた者である。ヴァネッサほどではないが、剣術にも自信はあった。闇に潜み、何が来るのか、クロウは待ち構えていた。色が迫ってくる印象はない。大人数が来る気配もない。一体、何が来るというのか……。気配が無くとも、何かが来るのは確かなことであり、どこと無く嫌な世予感だけはしていた。


――ガラリ。


立て付けの悪い扉が、音を立てて開かれたと思うと、そこには三人の男が立っていた。一人は、初老の男。後ろに控えるのは、男の部下と言ったところだろう。クロウは、剣を鞘にしまい布で包んだ。大した敵で無い以上、ここで争い正体を知られるのも困る。それに、イザベラが戻るまで一時も必要ない。イザベラが戻れば、人間の抵抗など容易く対処できる。

「こんな、夜半にどなたです?」

クロウは出来るだけ温厚に見えるよう、微笑みながら言った。

「お前は誰だ?ここの宿主は、老婆一人だけのはずだが?」

初老の男が高圧的に言い、クロウは微笑んだ。

「ただの客です」

すると、初老の男は小さく舌打ちをした。

「安宿に泊まる、ただの客風情が、偉そうに儂の前に立つな。さっさとどけ」

初老の男が宿に侵入しようとするから、クロウは男の前に立った。老婆には恩がある。服装からするに、官府と思われる男の侵入を許すことは出来ない。

「あなた方は客ですか?」

クロウが言うと、男はクロウを睨み上げた。威圧感を出しているつもりだろうが、男の力量の底が知れると言うものだ。弱く、小さく、愚かな犬ほどよく吠える。つまり、初老の男は弱く、小さく、愚かな男だということだ。

 クロウは不快だった。優れた力を持つ黒の石を積み出す色神クロウの目の前に、このような男が立つことが不快だったのだ。

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