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一色  作者: 相原ミヤ
火の国と来訪者
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黒の策略(4)

 クロウは安宿で夜を過ごした。親切な老婆が夕食を出してくれた。薄茶色の米に、茶色のスープ。味は少し塩辛かった。火の国では、樽にためた湯に浸かって身体を洗う。何も分からないクロウは、老婆の言葉や周囲の宿泊客の動きで火の国の作法を探った。

「九朗」

老婆がクロウを呼んだ。

「九朗、これ食べなさい」

老婆はクロウに対し親切だった。クロウは時を見て、老婆に紅について質問した。


「紅様とお呼び。紅様がどんな御方なのか、誰も知らん。知っておるのは、陽緋様たちじゃろうな」


紅には、赤の仲間がいる。歴代最強の陽緋「野江」そして、朱将の「都南」ら。彼らの名が有名なのは、そのような立場にあるから。クロウが下村登一を通じて覗いた場所にも二人はいた。まさに、紅の右腕たち。一方、紅については老婆は何も知らなかった。自国の色神についての情報を持っていないことは、クロウにとってとても異質なことであった。自国の色神は、自分たちの生活を守ってくれる存在。その存在の性別も容姿も年齢も、何も知らないなんて、興味が無いとしか思えなかった。けれども「紅様」と崇めるのは、色神に対して崇拝の念を抱いているからだろう。

「紅様がおるから、生活は支えられとる」

老婆は色神紅を崇めている。しかし、それは本当だろうか。老婆にとって、色神とは何を意味するのか。

 クロウは紅城に入りたいと願ったが、己の感情を押し殺した。


――未だだ。


動くには、未だ早い。クロウは己に言い聞かせた。


 都に入ったものの、クロウは都の中を散策していた。行き交う人々の表情は明るい。紅城を目印に、道に迷わぬように散策する都は新鮮なものだった。露店に並ぶ店には、見たことも無いデザートが売っており、クロウの目を引いた。火の国に刀工の腕は良いらしく、露店で売っているナイフの質はとても良かった。これほどのものを、鍛えるには質の良い材料も必要だ。火の国は、豊かな国だ。

 一つ、都を歩くクロウの目を引いたものがあった。それは、大きな建物だった。最初は紅城の一部かと思うほど、大きな城であった。これほど大きな建物が都に二つ必要なのか、クロウには理解できない。田舎者を装って、道行く人に建物について尋ねると、行商人の女は答えた。

「ああ、これは官府だよ」

行商人の女は建物を見上げた。

「あんた、最近都に出てきたのかい?」

女は背負った籠に入れていた卵を一つクロウに手渡した。クロウが最近都に来たことを伝えると女は溜息をついた。

「最近は税金が厳しくてね。官府への不満が募るばっかりだよ」

それは、言いなれた世間話といった印象だった。クロウは女に話をあわせた。

「本当なものだ。都に出てくれば仕事があると思っていたのだが。あてが外れてしまったな」

クロウが言うと、女は笑った。

「本当にそうだよ。官府は何を考えているのかね。くだらない権力闘争でもしているんでしょ」

女はそこまで言うと表情を固めた。

「おっと、あんまり言うもんじゃないね。ここは官府のお膝元。色神様に助けを求めるだけだよ」

女は言うと、籠を背負いなおし足早に歩き去った。


 下村登一も官吏であった。官府で働く者だ。火の国では、官府と色神が争っている。表面上、火の国の民は何も感じていないようだが、少し考えれば分かることだ。それは、色神を有している国ならば、どんな国でも起こりうることだ。強大な力を持つ色神と、石の力を引き出すことが出来る術士。彼らは、一般人からしたら、恐ろしい存在でしかない。決して勝つことが出来ない、そんな存在だ。

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