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一色  作者: 相原ミヤ
火の国と来訪者
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藤色の忠義(6)

 官服を着ているということは、彼らは官吏だ。堅物そうな外見から想像できるのは、彼らが典型的な保守派だということ。慣例を重んじる、紅が最も苦手とする種類の人間だ。義藤は、考えるよりも先に、紅を身体の後ろに隠した。

 姿を見せた官吏は三人。襲撃が生じてから、すぐに姿を見せたということは、情報を手にする立場にありつつ、行動力に優れているということだ。

「これは、これは。赤い羽織が三人も。陽緋殿に朱将、そして噂の若き朱護頭といったところじゃな」

一目で義藤たちのことを知っているということは、相応の立場にあるということだ。見た目は、遠次と同じほど。引き連れている部下は、四十ほどの男が二人。男ばかりで纏められた集団は、不思議な威圧感があり、女性である野江や紅を威圧する。社会を動かしているのは、男だと、古い火の国の考えを彷彿とさせる。

「早い、お着きで。あなた方は?」

野江の言葉には棘が含まれている。陽緋の任命権限を持つのは紅だ。そして、術士の任命権限を持つのは野江だ。正しく言えば、野江が選んだ人材に可否が無いか紅が確認したうえで、任命される。


――なぜ、女を陽緋に?


義藤に立場が無い頃、野江は陽緋になった。そのような意見は術士の中でも生じていた。しかし、それを黙殺するほどの力を野江が持ち、同時に同世代の都南や佐久といった味方もいた。第一、紅が女性だ。術士の不満はすぐに鎮まったが、官吏からは抗議が続いていたらしい。それが、義藤の知る陽緋野江の経歴。

「愛も変わらず美しき陽緋殿。儂らがここに来たのが不思議でございますか?」

三人の官吏は馬から降りて、前に立つ初老の官吏が足を進めた。

「ただ、市街で大きな爆発が生じたという連絡を受けて、ここに来たまで。来たところ、陽緋殿を始めとした赤い羽織の方々がいたまで。なにやら、神妙な話をされているようで」

野江は凛とした声で告げた。

「それで、あたくしが尋ねているのは、あなたが何者かということです。まず、名乗りなさい」

初老の男は小さく笑った。余裕さえ感じさせる笑いであった。

「そうか。儂の名は瑞江寿和。防塚の参官を務めております」

義藤は思わず息を呑んだ。それは、義藤が弱いからだ。

 官吏の中にも立場はある。官吏の中には、役割がある。税を管理する者。町を管理する者。保障制度を官吏する者。犯罪を抑制する者。他にも数々の役割が存在する。役割を塚と呼ぶ。防塚は犯罪を抑制する官吏。その中で三番目の権力を持つということだ。瑞江寿和。苗字を持つということは、この男も血統官吏だろう。大きな立場と、大きな権力を持っている存在。その攻撃の矛先が紅に向けられたとき、義藤は紅を守れるのだろうか。刀ではなく、権力で攻撃されたとき、義藤は紅を守ることが出来ない。そもそも、義藤より紅の方が強いのだから、守るという表現は間違っているのだけれども。

「ここは、あたくしたち術士が管轄するわ」

野江の言葉に、寿和は「うぎゃぎゃ」と特徴ある笑いで笑った。

「市街で起きた事件は、我らの管轄じゃ。そちらが出張る必要もないじゃろう。もし、これに術士が関わっているのならば、陽緋殿の管理がいたらなかったということ。どうやら、二人攫われたようじゃないか?自らの管理の至らなさを表出させるのは、愚かなことじゃ」

野江の表情が固くなった。

「二人じゃない。二人と一匹だ。それに、攫われたのは一人で、一人と一匹は助けようと自ら追いかけた」

低く言ったのは、紅だった。寿和は苛立ったように言った。

「憶測で物を言うでない。第一、その小娘は何者じゃ!」

紅はそっと、義藤の後ろに隠れた。名女優紅の演技だ。義藤は紅が演じていることがすぐに分かった。

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