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一色  作者: 相原ミヤ
火の国と来訪者
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藤色の忠義(4)

 加工師柴は、優れた術士であった。術士としての才ならば、野江の方が優れる。朱将としての刀技ならば、都南の方が優れる。しかし、柴は優れた術士であった。柴は、野江や都南、佐久、もちろん義藤も持っていない物を持っているのだ。


――色を見る目。


それが柴が持っている物だ。


 そして、目があるからこそ柴は加工師として優れているのだ。どういうことなのか、見えない義藤には分からないが、柴には色が見ているのだ。一色が見えているということは、その人の本質が見えるということだ。色が見えるから、柴は正確に石を加工することが出来る。この火の国に、柴以上の加工師は存在しない。

(義藤。お前、いい色をしているな。強いが優しい赤色だ。義藤の持つ優しい赤に似た色を、俺は見たことがある)

義藤が柴と初めて出会った日、まだ陽緋と朱将を兼ねていた彼は、義藤にそう言った。

(その赤色を失うな。赤と共に歩め)

子供だった義藤の前で大きく笑いながら、柴は言った。表情には出さないが先代の紅を守れなかったことを、最も悔いていたのが柴だった。柴は豪快で、強くて、そして温かかった。

 柴が加工師になったのも、突然だった。

(術士としての才ならば、俺よりも野江が優れる。朱将としての才ならば、俺よりも都南が優れる。朱護頭としての才ならば、俺よりも佐久が優れる。俺が地位にしがみつく理由は無いだろ。――俺にしか出来ないことがあるんだ。俺は、後ろからお前たちを支えるさ。お前たちの才に負けない石を加工してみせる)

自らの意思で前線を退き、加工師となった柴は、術士としても優れている。その柴が負けたということが、義藤だけでなく野江と都南さえも不安に駆り立てるのだ。


 小さく舌打ちをしたのは、都南だった。二年前、柴が都南を朱将の地位に留めたのだ。加工師としての腕で、都南を補佐する赤い刀を鍛え上げたのも、柴だった。

「あなたのことです。既に策はこうじているのでしょう?」

野江が問いただすように紅に言った。紅は低い声で「ああ」と答えた。

「もちろん、出来る限りのことはしている。赤丸と赤影の一人を追わせている。相手が誰か分からない以上、今以上に動くのは難しいな。強敵だ。悠真を襲った敵が全てとは限らない。私たちが悠真と柴を救うために動いたところで、その隙を突かれては何の意味も成さないだろ。――出来る限り、平静にするんだ。弱みを握られないように、火の国の紅は不屈の存在だと示すように、紅の仲間は怖気づかないとしめすようにな」

義藤は紅を見た。紅は強い存在だ。決して弱さを見せず、決して逃げない。山で育った義藤は、山から下りてすぐに紅に出会った。その時から紅は、強い存在だった。普通の女の子であったときから、義藤と忠藤に取っ組み合いの喧嘩を挑み、握り飯を食べる量を競い、駆け足の速さを競った。ただ、元気なだけでなく、紅は両親の前で清楚に振る舞い、落ち着いた茶の手前は大人顔負けだった。字が美しく、気位が高いようで、優しい。出会った時から、紅はそんな子だった。だから、義藤は兄の忠藤と約束したのだ。守ろうと。何があっても守ろうと約束したのだ。

 守ろうと決めた女の子が紅となり、義藤の世界は一変した。それは、忠藤も同じだったはずだ。義藤の世界を変えた紅は、今も義藤の前にいる。戦い、難題へ挑み、苦悩している。義藤の横にいた野江がそっと微笑んだ。

「赤丸が追っているのなら、今、あたくしたちが追ったところで大した意味も無いわね。だってそうでしょ。赤丸はあたくしたちに並ぶ存在。表と裏で存在場所は違えども、追い求める未来は同じはず。ならば、あたくしたちは赤丸の力を信じて、自らの仕事をするまで。紅がおっしゃるように、赤の仲間は強いと、敵に示さなくてはならないのよ」

野江の言葉は凛と響き、義藤は何も言えなかった。

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