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一色  作者: 相原ミヤ
火の国と来訪者
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藤色の忠義(3)

 瓦礫の上で、青の石を使い、義藤の心臓は全力で駆け抜けたように強く脈打った。相性が良くなくても石を使うことが出来る。しかし、紅の石のように容易く大きな力を引き出すことが出来るわけではない。紅の石と同様に大きな力を引き出そうとすると、紅の石を使う数倍の疲労感があるのだ。

「義藤、ありがとな」

自然と息が上がる義藤の背を都南が叩いた。彼は、人に礼を言うことが出来る朱将だ。

 術の使えない朱将「都南」は、否応なしに、術を使うことが出来る仲間に頼らなくてはならない。立場を持つ都南が、仲間に頼るということは、義藤が誰かに頼るのとは異なる。都南は、自らの不足分を知り、受け入れている。もし、義藤が都南と同じ立場であったら、そのように振舞う自信は無い。そもそも、彼は二年前まで術を使うことが出来ていたのだから。

 二年前、白の石で命を永らえた都南は術の力を使うことが出来なくなった。その時の都南の荒れた姿を、義藤ははっきりと覚えている。義藤は何も出来なかったのだから。義藤はずっと都南の背を追い続けるだろう。義藤が都南に剣術で勝つには、長い年月が必要なはずだ。それは、決して義藤が体格的に劣るという理由ではない。都南には剣術しかないから、都南の剣術に対する姿勢は義藤以上に実直なのだ。どれほど、義藤が努力したところで「術」という逃げ道を持つ義藤が、都南に追いつくことは容易くない。都南はとても強い人だ。

 

 燻る煙は、義藤が青の石を使い雨を降らせたことで消えていた。暑い季節が近づいてきたとはいえ、水に濡れることは体温を奪っていく。義藤が目を向けると、濡れた紅が馬から降りて、水で薄くなった血の跡を見ていた。

「気づいているんだろ。俺たちにも教えてくれ」

都南が紅に布を渡しながら尋ねていた。それは、義藤も同様だ。ここで、赤影の一人が戦った。しかし、何と戦ったのだ?この血は誰のものだ?疑問は尽きない。

 泣き崩れる女店主から離れた野江も、紅の元へ歩み寄り、義藤も紅の元へ足を進めた。紅はしゃがみ、血の跡に手を触れて、離した。紅は他の誰にも聞こえないような小さな声で、呟くように言った。

「悠真が紅城から逃げ出したんだ。大事は起きないだろうと、赤影の一人を護衛につけていたのだが、何かに襲われたらしいな。きっと、黒の石の力に襲われたんだ。おそらく、悠真を狙ってきたんだ」

野江の表情が凍り付いていた。

「助けに行かないと」

そんな野江の申し出を、紅は冷たく言い捨てた。

「無駄だ。相手は強いぞ。この前の下村登一の比じゃない。お前たちでも勝てないぞ。野江、都南、義藤。よく聞くんだ。私は赤影の一人を護衛につけた。同時に、偶然にも術士が一人居合わせたらしいな」

紅は複雑な表情で血の跡に触れていた。

「術士が?あたくしは市街に術士を出していなくてよ。一体、誰が……」

野江が不思議そうに首をかしげていた。すると、紅が小さく笑った。それは強大な敵を前にして、己の危機を感じて笑いがこみ上げる。そのような笑いであった。

「柴さ」

一言、紅が呟いた。


――加工師柴。


柴という人物は他にいない。

「柴の石も使われたから、気になっていたが、やはりここで間違いない。柴はここで戦い、深手を負った。お前たち、柴が敗れたということが、何を意味しているのか分かるだろ?」

紅は確信まで言わない。だからこそ、義藤たちは自らで考え、人から言われるよりも状況を冷静に理解するのだ。

 義藤は瓦礫の山を見た。ここで柴が戦った。柴の強さは義藤も知っている。もちろん、野江と都南も同じはずだ。


 加工師柴。野江や都南よりも少し年上の存在。歴代最強の陽緋野江と朱将都南。紅を守る二人が、成長するまでの間、紅城には強い人材がいなかった。だからこそ、彼が担っていたのだ。陽緋と朱将という二つの役職を兼ねて、先代の紅を守り続けていたのだ。

「それで、柴は?」

都南の顔色が悪かった。誰よりも柴に恩義があるのは都南だから、当然のことかもしれない。

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