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一色  作者: 相原ミヤ
火の国と来訪者
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藤色の忠義(2)

 市街の一角に人だかりが出来ていた。人だかりの先は無人で、誰も近づけないといった雰囲気だ。人だかりに近づくと、紅は馬を走らせるのを緩め、先頭に都南と野江を走らせた。誰も、色神が誰なのか知らない。知られてはならないのだ。この場では、赤い羽織が権力を示し、顔の知られた野江と都南が紅の使いだと思われやすい。

 人だかりは、赤い羽織の人物を認め、自然と道を作った。赤い羽織に対し、畏怖に近い念を抱いているのだ。義藤はそっと馬を紅に近づけた。紅の表情は固い。義藤以上に紅は危機を覚えているのだ。義藤は懐から赤い布を取り出し、歩む馬の上でそっと紅の首に巻いた。赤い羽織の三人と共にいるのだから、赤を身に着けてもらわなくては、他の人に怪しまれる。そういうことだ。

「お前は女々しいくらいに気が利くな」

紅が口を尖らせていた。

「あなたには、女房役が必要でしょう」

義藤が言うと、紅は笑った。強張った紅の表情が緩み、義藤は安心した。同時に先に馬を進める野江と都南の先に、煙が見えた。


――何かが生じている。


それは確信に変わった。煙は建物が燃える臭い。後で朱軍による市街の整理と鎮火、建物の再建援助が必要だろう。それ以上に心配なのは、民が怯えることだ。何かが生じていることに、民は気づいている。よからぬ事態に、紅が冷静に対処し、術士の力を見せなくては民はたちまち混乱状態に陥る。それこそまさに、火の国の危機と言える。

 煙が昇っているのは、商店街から一歩奥に入ったところだった。建物が無残に破壊され、屋根の一部が落ちていた。瓦が四方に散らばり、落ちた梁の先に血の後が残されていた。義藤の前を進む野江と都南が馬から降り、馬の手綱を適当な瓦礫にくくりつけた。

 崩れた建物のそばで女が泣いていた。店主だと思われる女の前掛けを見ると、この瓦礫の山が団子屋であることが想像できる

 野江は泣き崩れる女に歩み寄り、そっと膝を折った。陽緋でありつつ、気取らない。それが野江の素晴らしいところである。歴代最強の陽緋というのは、単に野江の力だけを指したものではない、と義藤は思っていた。野江は誰に対しても、慈しみを持って接している。悠真を連れてきた時も同じだった。民からしたら遥か上の存在なのに、野江は痛みを共感してくれる。分かち合ってくれる。突き放さず、容易く膝を折り、優しく声を掛けてくれる。だから、野江に会った人々は、口をそろえて言うのだ。

(人柄が良い人だ。まさに、歴代最強の陽緋だ)

口をそろえて言うのだ。義藤が、いつの日か野江に追いつきたいと思うのは、術の力を尊敬してのことではない。野江の力の強大さは、生まれ持っての才能の面が大きく、容易く追いつくことが出来ない。ならば、野江の人柄に少しでも近づきたいと思うのだ。

「血の後があるな。誰が戦った?」

都南が真っ先に、瓦礫の山によじ登った。煙の臭いが燻っている。

「おい、義藤。お前、青の石持っているか。延焼する前に消しておけ」

都南が馬に乗ったままの義藤に言った。義藤が紅に目を向けると、紅は一つ頷き義藤は馬から降りた。降りてみれば、ここで石を使った戦いが生じたことが容易く想像できる。ここまで建物を破壊できるのは、石を使わなくてはならない。義藤は血の跡の残る瓦礫に昇り、青の石を取り出した。

 義藤は青の石を使うことは、あまり得意ではない。赤の仲間で青の石を使うことが得意なのは、佐久と秋幸くらいなものだ。それでも、術士としての才覚に恵まれているから、青の石を使うことが出来る。義藤は青の石を使って水を出した。雨のように降る水は、燻る煙を瞬く間に消し去った。

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