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一色  作者: 相原ミヤ
火の国と来訪者
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襲撃される赤(3)

 膨大な黒い力を膨らませた異形の者は、口を開き幾重にも並んだ牙を術士の男と犬に見せ付けていた。口からは液体がこぼれ、異臭を放っている。犬は身体を起こそうとしているも、立ち上がれずにいる。そして、術士の男は犬を気遣い自らの身体の後ろに隠していた。


 異形の者の力はさらに膨れ上がった。異形の者から溢れ出る黒い力は底知れない。その黒は闇のように静かで、先を打ち消す濃度を持っていた。悠真は、この黒の力と紅の鮮烈な赤い力が近しいように思えた。どちらも、他者と圧倒的に差をつける力を持っているのだ。

 異形の者は術士の男に向けて一歩足を進めた。色の濃さに押されたのか、犬が再び倒れた。犬はもがくように四肢を動かしているが、起き上がれそうにない。

「小猿、逃げろ」

術士の男が低く言った。その間にも、異形の者は術士の男に向けて一歩、また一歩と足を進めている。

「小猿、逃げろ!!」

術士の男が叫んだ直後、異形の者の持つ膨れ上がった黒い力が弾けた。弾けた黒は、術士の男を狙い、術士の男は紅の石で応戦していた。しかし、それが長く続かないことは明らかだった。

「かまわず逃げろ!」

術士の男が叫んだ直後、異形の者の黒い爪が術士の男の肩口を突き刺した。


 赤が消えた。


 そしてそこには黒い力を放つ異形の者が立っていた。



 勝利した異形の者はゆっくりと方向を変えて、悠真に向かって足を進めた。黒い目。その目の先に、悠真は色神黒を見た。

「まさか、宵の国から黒がくるはずないよな……」

悠真は異形の者に言った。しかし、異形の者は何も答えない。

――ぎゅるるる

異形の者は悠真へと足を進める。まるで、笑っているようであった。

「まさか、俺が狙いなんて言うなよ」

悠真は異形の者に言った。もし、悠真が狙いであったのなら、この戦いは何の意味があるのというのだろうか。術士の男も犬も、悠真のために戦ったというのだろうか。

「そっか、また俺はやらかしてしまったんだな」

悠真は後悔した。目の端には、もがく術士の男と犬の姿が映っている。彼らの流した赤い血は、悠真のために流した赤い色。

「だから、早く帰れって言われたんだな。犬が護衛ってそういうことなんだな」

異形の者は悠真に向かって足を進める。そして悠真の目の前に黒が迫った。


 異形の者の背から、翼が広げられた。姿が鳥のように変じ、大きく羽ばたいたかと思うとその足で悠真の身体を捕まえたのだ。

「させるか!」

叫んだ男の声が響いたかと思うと、男は刀を異形の者に突きたて背中にしがみついた。同時に犬も残された力を振り絞り、異形の者に飛び掛り喰らいついた。悠真は何も出来ずに、彼らが悠真を助けてくれようとしているのを見ていた。術士の男は犬の首を掴み、落ちないように気遣ったかと思うと、異形の者は翼を広げて飛び立った。


 異形の者は、ぐんぐん空へと舞い上がった。空から見る都の景色は、野江と共に空挺丸から見た景色と同じだった。異形の者は都から離れ、山へと向かっていた。眼下は森に変わり、森の中に川が流れていた。何も出来ない悠真と違い、術士の男は異形の者の背中でずっともがき続けていた。そして、突如、異形の者の身体を刀で切り裂いた。


 異形の者は死なない。しかし、身体を半分に斬られて身体が揺らいだ。揺らぎ、悠真の身体を手放し、同時に術士の男と犬も異形の者から離れた。落下しつつ悠真が見たのは、術士の男が紅の石の力で異形の者を遠くに投げ飛ばす様子だった。


 悠真たちは落ちるしかない。


 森に流れる川が悠真に迫っていた。

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