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一色  作者: 相原ミヤ
火の国と来訪者
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襲撃される赤(2)

 異形の者と男が駆け出したのは同時だった。男は刀を引き抜き、異形の者の前足を切り落とした。


――不死の異形


悠真は、黒の石が生み出す力を知っていた。異形の者を止めるには、異形の者を生み出した術士を殺すしかない。


しかし……


悠真が見渡す限り、辺りに術士はいない。黒の気配をたどると、遥か遠くまでつながっている。一里を超えるほどの遠方から、術士は異形の者を操っているのだ。

 男は術を使い、異形の者を押さえつけた。それは、下村登一の乱にて、野江や佐久が行ったのと同じことだ。終わりの見えない方法だ。


「ぐるるる!」

突然、犬が異形の者に飛び掛った。犬の攻撃を受けてひるんだ異形のものであったが、異形の者は押されはしない。牙と牙を向け合い、犬に噛み付こうとした。援護したのは、術士の男であった。犬に噛み付こうとする異形の者の懐にもぐりこむと、豪快な太刀さばきで刀を振り上げ、異形の者を切り裂いた。

 直後、赤い光が輝き異形の者は地に倒された。その赤い光がどこから出てきたのか、悠真は分からなかった。確かなことは、術士の男がかなりの使い手であり、犬が意志を持って戦っているということだ。

 赤い光で押さえつけられている異形の者。異形の者が持つ混じりの無い黒が突如濃くなった。まるで、遠方にいる術士が力を与えているようであった。


 異形の者の力は二倍、三倍と増していく。赤と黒が反発しあい建物は崩壊していく。長屋続きだから、隣の部屋まで崩壊につながっている。濃厚な黒に、術士の男は敵わない。これほどまでに濃厚な黒に打ち勝つのは、紅だけのはずだ。

「ちっ!」

男が舌打ちをした直後、異形の者は赤の力を押し上げ、術士の男に牙を向いて飛び掛った。

「危ない!」

悠真が叫んだのは、瓦礫の崩壊の音の中。術士の男に向かって一直線に走る異形の者。男が刀を構えるが間に合わない。

「うぉん!!!」

犬が吼えたと思うと、異形の者の前に犬が割り込んだ。異形の者が醜く大きな口を開き、犬の身体に喰らいつき、そして投げ捨てた。犬は悲鳴も上げることなく地に投げ捨てられた。犬の胸腹部からは赤い血が流れている。またもや、赤が残酷な色に豹変してしまったのだ。


「くそっ!」

男は悪態をついた。

 異形の者は犬を投げ捨てると、一時動きを止め、その目を倒れた犬に向けた。犬の命を完全に絶とうとしているように、倒れた犬を執拗に見ていた。――次の瞬間、異形の者は倒れた犬に向けて駆け出した。

「させるか!」

男は犬の前に走り、異形の者の首を斬り付けた。先ほどまでは、犬と男が二人で戦っていた。先ほどまでは、異形の者の色が薄かった。今は違う。犬は倒れ、異形の者の色は強まっている。

 術士の男は優れた力を持っているが、今の異形の者の力は術士の男を超越している。術士の男一人で敵う相手ではない。この、異形の者の力は特別だ。


 異形の者の力は膨張し、膨れ上がっていく。膨れて、今にも弾け飛びそうになっていた。異形の者という器に囚われた黒い力が、溢れだしたとき、辺りの空気は黒で覆われた。ここは火の国。赤の国。しかし、この空間は完全に黒に支配されていた。術士の男の赤の力は、深く暗い闇の中で、僅かに灯された蝋燭の赤のようであった。僅かな赤では、闇を打ち払うことは出来ない。

「お前、一体、何者だ。なぜ、火の国にやってきた?何が目的だ!」

男の声は荒い。男が叫んでいるのは、異形の者の先にいる黒の力の主に叫んでいるのだ。

「俺を倒そうと、紅の周囲には優れた術士が残っているぞ。俺を倒そうと、犬を倒そうと、紅の周りには赤の術士と赤影がまだ残っている。無駄なことだ」

男が叫び、まるで呼応するように犬が傷ついた身体を起こした。

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