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一色  作者: 相原ミヤ
火の国と来訪者
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襲撃される赤(1)

 男は悠真に帰れと促す。犬も悠真を見上げているから、逆らえないような気持ちになった。男が悪い人物でないことは明らかで、大きな赤色が包み込むような温かさを持っていた。

「急いだ方がいいだろうが、急いで戻ったところで追ってこられるだけだろうな」

男は明らかに警戒を強めていた。

「追ってくるって?」

悠真が問い返すと、男は囁くように言った。

「辺りを見てみろ。お前なら見えるだろ。黒が辺りを包んでいる」

男が言うから、悠真は辺りを見渡した。すると、空気が黒く染まっていくのを感じた。ここは赤の国。なぜ、黒がいるのか。なぜ、黒がここにいるのか。犬もゆっくりと立ち上がった。

「急に黒が濃くなった。どこのどいつか知らないが、黒を使いこなす者がいるんだな。逃げたところで、時既に遅しということだ。俺よりも、この犬ころよりも強い力を持っている黒の術士だ。勝つには、陽緋や朱将が出てこなくては厳しいだろうな」

男は悠真の腕を掴んでいた手を離し、そっと自らの懐に手を入れた。

「お嬢さん。逃げた方がいい。お客さんも逃げるんだ。逃げて、紅城へ駆け込んで、救援を呼ぶんだ」

男は言い、懐から赤いものを取り出した。高貴な赤は店の女店主が緊急事態を理解するに十分だった。


――紅の石。


男は紅の石を持っていた。

「あんた、術士なのか?」

悠真が尋ねると、男は笑って答えた。

 勢い良く店の女店主と客たちが外に飛び出した。

「動くな。俺たちが動くと、敵も動く。誰も巻き込みたくないだろ」

無音の空間で、男と犬が緊張を高めていた。犬は白い牙を見せて低くうなっていた。耳を倒し、毛を逆立てた犬は、凶暴な猛犬であった。

「さあ、お出ましだ」

黒の気配が最も濃くなったとき、男が一言呟いた。まるで、戦場になれたような存在。一体、男が何者なのか、悠真には分からなかった。


 響く爆音。


最初に耳にしたのは、建物が崩れる音だった。悠真が無事なのは、男が紅の石を使って悠真を庇っていたからだ。悲鳴が遠くで聞こえるのは、男が店の人に非難を促し、店の人が周囲の人を逃がしたからだろう。男の判断は賢明であった。悠真の心臓は緊張で高鳴り、頭の中で非常事態を知らせる警報が鳴り響いていた。一人で出てきた事を悔やんでも遅い。後は、紅たちがこの事態に一刻も早く気づいて、助けに着てくれるのを願うだけだ。


 大きさのある赤。


それが男の持つ一色だった。力の強さも証明されている。術士としての立場を確固たるものにするほどの力。それが男の力だ。

「隠れてろ」

男が言うと、悠真は赤い夜の戦いの時を思い出した。悠真を守るために義藤が戦い、深手を負ったのだ。彼は命をかけて悠真を守った。


 壁を破壊して姿を見せたのは異形の者であった。身体は悠真よりも大きいが、下村登一が作り出した者より少し小さい。しかし、異形の者が放つ黒の濃度が違った。黒は色濃く、混じり気がない。深く、濃く、静謐とした色であった。

「ぎゅるるるる」

異形の者は、醜い顔で辺りを見渡していた。

「困ったもんだ。どうして、火の国に来たんだ?」

男は異形の者に言った。男の横に犬が立ち、犬はまるで自らが術士であるかのような仕草を見せているのだ。

 

 男の持つ紅の石が輝き、男はゆっくりと腰に手を伸ばした。布に包まれていた刀を引き抜くと、無駄のない動きで男は刀を構えた。まるで、都南の動きのようであった。二十日間、都南が刀を振るっている姿を見ているから分かるのだ。


 男は強い。



それは事実であるが、異形の者も強いだろう。色の濃さが、それを証明していた。

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