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一色  作者: 相原ミヤ
火の国と来訪者
143/785

赤の都(2)

 店の中には何人かの客が座っていた。軒先で団子を焼き、店内で食べれるつくりになっていた。

「うちは動物禁止なんだけどね」

女店主が言い、悠真は頭を下げた。犬は大人しく悠真の横に伏せていた。団子が皿の上に乗せられ悠真の前に置かれた。温かい緑茶もある。文句は何も無い。

 先に店に入っていた客が不思議そうな顔をして、悠真に近づいてきた。それは、大柄な男であった。太っているわけではない。体格がよい。そういう存在だ。男は片手に団子が乗った皿を、片手に湯飲みを持って、目を見開いて悠真に近づいてきた。

「お前、面白い奴だな」

三十を過ぎたくらいだろう年齢の男は、旅人のようであった。都に用事でもあるのだろう。

「なんだよ、いきなり」

悠真が言い返した。せっかくの団子を食べようとしている時に、声をかけられるとは、男は邪魔者でしかない。

「お前、自分のこと知っているか?」

何を言っているのか分からない。確かなことは、邪魔な男は悠真の向かいにどっしりと腰を据えてしまったことだ。

「俺は、団子を食べに来たんだ。邪魔するなよ」

肩の凝る紅城から抜け出し、ようやく見つけたみたらし団子。悠真の至福のときだ。男は悠真が団子を口に入れようとしたとき、手早い速さで悠真の手を掴み顔を近づけてきた。

「久しぶりに都に来てみたら、何とも景色が変わって面白いもんだ。その犬も面白いな。お前の犬か?」

男は悠真についてきた大きな犬にも興味を持っていた。はっきり言って、うっとうしい以外の何でもない。悠真は掴まれた腕を力いっぱい引っ張って、男の手を振り切った。

「何だよ。邪魔するなって言ってるだろ。俺は団子を食べに来たんだ。この犬は勝手についてきたんだよ。俺には何の関係もねぇよ」

悠真が言うと、男は感心したように犬に手を伸ばした。大きな犬は男のことを無視して、前足の上に顎を乗せて伏せていた。男の手が犬の額を撫でるが、犬は何の興味も示していなかった。

「へえ。なるほどな。お前も面白いが、この犬も面白いな。犬が小猿の護衛ってことか」

男が何か戯言のようなことを口にしているが、悠真には興味がない。今の悠真には、みたらし団子があるのだから。悠真が再び大きな口を開き、団子を口に入れようとしたとき、再び男が悠真の手を掴んだ。

「お前、自分の立場を分かってるのか?」

悠真が団子を食べようとするのを、再び男が邪魔した。男の指は悠真の腕に深くくい込み、簡単にはずせそうにない。

「まったく、何言ってるんだよ!団子を食べさせてくれって」

悠真が言うと、男は苦笑した。

「団子な。お前、面白いな。だが、こんなところに居ない方がいいぞ」

突然、そんなことを言われるから、悠真は困惑した。

「あんた、一体何を言っているんだ?」

悠真が問い返すと、男は強い目で悠真に言った。強く深い色の目は男の人柄を示していた。その時、悠真は自分に色が見えることを思い出し、男のことを覗いてみようと思った。色が見えれば、人が見える。


――大きな赤色。


それは、包み込むような穏やかさと大きさを持つ。おそらく、子供がいるのか、年下の弟や妹がいるのだろう。強い責任感で、守り包んできた。それが似合う色だ。


 悠真は男の色を覗いた。しかし、それは男の本質であり正体ではない。

「早く家に帰るんだ。俺も一緒に行く。その犬もいる。この、都のためにもな」

男の言葉に偽りは無い。家ということは、紅城に帰れということなのだろうか。悠真は男を見上げた。

「お前もそう思うだろ」

男は犬の頭を撫でようと、再び手を犬の頭の持っていったが、犬はふいと横を向いていた。

 悠真に男の言葉の真偽を確かめる術はないが、男を紅城へ連れて行って良いものかは分からなかった。ただ、男の大きな赤色が温かく感じていた。

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