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一色  作者: 相原ミヤ
火の国と来訪者
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動き始める赤(2)

 打ち合う都南と春市の手合わせは、都南の勝利で幕を下ろした。そもそも、刀で都南に勝てる者は誰もいないのだ。佐久の部屋で甘味をあさっていたはずの紅が縁側に出てきて、赤の仲間たちに言った。

「少し話しがあるんだ。集まってくれないか?」

紅が言うと、赤の仲間たちは皆紅の元へ集まった。打ち合った二人は汗を拭きながら。二人の打ち合いの審判をしていた千夏は二人の後を追って。縁側近くの部屋にいた佐久は何度もつまづきながら。佐久の部屋にいた秋幸は、さりげなく佐久を支えながら。縁側で寝そべっていた冬彦はゆっくりと身体を起こして。書物を読んでいた野江は書物を閉じて。野江の横に座っていた遠次はゆっくりと立ち上がって。そして悠真と義藤も紅の元に歩み寄った。


 紅は縁側に座り、紅に向かい合うように赤の仲間たちは座った。その末席で悠真は紅の言葉を待った。

「下村登一の乱から二十日が経っただろ。私たちは先に進む時が来た。なにやら異国の空気が怪しい。異国が火の国に目をつけて、足を踏み入れようとするのなら、火の国はいつまでも鎖国を保っていられない。この平和がいつまでも続くのかも分からない。だから私たちは前に進まなくてはいけないんだ」

紅の言葉に疑問を投げかけたのは、佐久だった。

「つまり、具体的にどうするつもりなんだい?紅のことだ。その先まで考えて僕たちに提案しているんでしょ」

佐久の言葉に紅は不敵に笑った。

「そうだな。佐久の言うとおりだ。私は、官府の官吏と歩み寄ろうと思っている」

男物の着物を着た紅は、胡坐姿で言った。豪快で、悠真の心を惹き付ける。気持ちのいいほど、物事を先へと進めていくのが紅だ。

「はあ?」

都南が素っ頓狂な声を出した。その後に続いたのは野江だった。

「紅、官府はあなたと敵対する存在よ。下村登一だってそうだったじゃない。それに、先代の紅を殺したのも、二年前に襲撃に来たのも紅を疎ましく思う官府の差し金よ。こちらが歩み寄ったところで、また痛めを見るのはこっちなのよ」

野江の言うことは最もだったが、同時に義藤は下村登一の屋敷の地下牢での秋幸の言葉を思い出した。


――官吏の中にも紅に歩み寄ろうとしている人もいる。


紅は秋幸の話を聞いたのかもしれない。

「まあ、とりあえず話を聞いてくれないか?」

紅は手をひらひらとさせて動揺する赤の仲間を鎮めた。

「下村登一の乱で、私は四人の仲間を手にした。春市、千夏、秋幸、冬彦たちは私たちの戦力になるだけじゃない。今まで、私たちが囚われていた既定概念に打ち勝つ力をくれるんだ。秋幸は、官府に忍び込み内情を探っていたんだ。秋幸は私に友好的な官吏の一派を見つけてくれた。接触してみても、悪くないと私は思うんだ」

紅は身を乗り出して言った。

「紅、その先のことも考えているんだろ」

義藤が促し、紅は頷いた。

「接触したら、術士の官府への派遣を申し出るつもりだ。そして、官吏を紅城にも受け入れる。まずは二人、三人程度。互いに、互いのことを知る必要があると思うんだ。それに、術士を官府に派遣していると、官府の動向を探ることが出来る。一石二鳥だろ。十年前の先代が死んだときのような戦いも、二年前のような戦いも、先の戦いも、もう私は懲り懲りだ。異国が火の国に目をつけているときに、内乱なんて馬鹿らしい。だからこそ、私は動き始めるんだ。そう思うだろ、佐久」

紅の声は明瞭と響き、赤の仲間たちは誰も反論をしなかった。なぜ、佐久を名指しにしたのかは分からない。ただ、先に進む覚悟を決めることしか出来なかった。

 紅が動き始めた。紅が動き始めたのは、異国を意識してのことだ。


――悠真、異国が来るわ。


無色の声が悠真の脳裏に響いた。

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