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一色  作者: 相原ミヤ
火の国と紅の石
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赤の茶会(1)

 悠真は赤い羽織を着た人たちは、なんとも変わった人たちだと思った。悠真の前を、陽緋の野江、朱将の都南、そして佐久が歩いている。目の前を高貴な色である赤が、ゆらり、ゆらりと揺れている。初めて赤い羽織を見た時、とても美しい色だと思った。しかし、今は違う。赤い羽織が意味する重み、若い彼らが背負っている重み、紅が敵か味方か、悠真は何も分からない。そんな中で、赤い羽織を着た人たちは、なんとも平然としているのだ。大きな責任と重圧の中で、紅を守ろうとしている。悠真にとって、紅は敵である。彼らは紅を守ろうとし、悠真も守ろうとしている。赤い羽織を着た人たちは、なんとも変わった人たちだ。彼らにとっては、紅城で復讐に息巻く悠真が、とても変人に見えることだろう。赤い羽織は神の力である炎のようで、命の源であるである血のようで、人々に希望を与える太陽のようであった。悠真が出会った、赤い羽織の人たちは五人。野江、都南、佐久に遠次、義藤を加えた存在だ。紅の周りには若い人たちが多い。悠真は彼らの話から、それぞれの年齢を推察していた。遠次の年齢は不明だが、野江は二十九、都南と佐久が二十八、義藤が二十二ぐらいのはずだ。若い彼らが、紅を支え、火の国を守ろうとしている。

 紅城は、紅の住まう大きな建物を中心に数十の建物で構成されている。悠真は、これが、紅の重臣が与えられている官邸なのだと理解した。

 佐久は、何も無いところで何度も躓き、その度に都南が支えていた。長身の都南と小柄の佐久の間には大きな身長差がある。その身長差を、悠真はじっと見つめた。何も無いところで、佐久が五度目に足を取られたとき、突如として悠真の後ろで声が響いた。いきなり空気のように生じ、背後に赤い色が揺らめいた。

「ほら、またこけた。もう少し身体能力が高ければ、いや人並みに動ければ、陽緋候補として野江に並べたのにな。なんせ、佐久は紅の石以外の色の石を容易く使うことができる。他色の石を使わせれば、野江を越える。身体能力だけの都南と術だけの佐久。足してちょうど良い」

悠真の耳元で、囁くような声が響いた。赤い色が広がっていく。その声に、悠真の前を歩く、赤い羽織を着た三人が同時に振り返った。慌てて、焦ったように。振り返った拍子に、再び佐久が足を取られ、都南が佐久を支えた。

「ほら、まただ」

赤い声はけらけらと嬉しそうに笑っていた。悠真は振り返ることさえ出来ない。濃厚な気配が後ろにあるのだ。誰よりも鮮烈な赤い色が悠真の肩に手をかけていた。佐久が足を取られるたびに、嬉しそうに笑うその声が赤く響き、悠真は振り返ることが出来ない。

「ああ、ばれてしまったな。怒らないでくれよ」

悠真は何も言えない。動けない。そこにいるのは、間違いない。間違いなく紅だった。声が同じだ。濃厚な気配が同じだ。香りが同じだ。鮮烈な赤い色が同じだ。紅を思うと憎みがこみ上げて来る。悠真の村を守れたのに、守らなかった。紅が滅ぼしたのだ。紅の境遇を知っても、悠真の憎しみは変わらない。なのに今、紅に対して怒りをぶつけることが出来ない。梅雨時のじめじめした空気を吹き飛ばすような、そんな赤に惹かれていたのだ。

「どうして、こんなところにいるのですか?」

慌てたように野江が言った。

「また、義藤を困らせたんだろ。悪いが、俺たちにまで迷惑をかけないでくれよ。義藤に怒られるからと、俺たちを盾にするなよ」

都南が言った。

「僕はそこまで運動音痴ではないけれど」

佐久が言った。悠真の後ろの気配は、嬉しそうに笑った。声が赤く花開く。

「だってさ、ずっとあそこにいると息が詰まるだろ。心配するな」

気配はゆっくりと悠真の隣を通り過ぎ、前に躍り出た。高い位置で髪を一つに束ね、着物に紅は含まれない。化粧をしていない顔は、野江ほど華が無いが、不思議と心を惹かれた。女物の着物を着ているが、質素な着物からは紅の姿を想像できない。あの、高圧的で高飛車な雰囲気は感じられないのだ。彼女は悠真の隣を通り過ぎ、そして振り返り悠真を見つめた。

「この顔、誰か知っているか?」

彼女は無邪気に微笑んだ。

「どうして……」

悠真は言葉を失った。憎んでいるのに、目の前にすると怒りをぶつけることが出来ない。

「楽しそうなことをしているみたいだからな。私だけを仲間はずれにするなよ」

彼女は微笑んだ。

「こっちへ来い」

都南が彼女の腕をつかみ、引きずるように歩いた。

「おいおい、乱暴に引っ張るなよ」

紅はけらけらと、笑っていた。赤い笑いが辺りに輝いた。野江も佐久も都南を追いかけて歩いていた。悠真も赤い羽織の人たちと、赤を司る色神を追いかけて歩いた。

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