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一色  作者: 相原ミヤ
異国と火の国
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色図と流の国の色読(1)

 世界は色に満ちている。色には神がおり、己の色を力とし民に与えている。だからこそ、必然的に色神を有する国は強大で、色神を有さない国は遅れをとってしまう。もちろん、色神を有さなくても力を持っている国もいる。宵の国のように強大な土地を持つ国。エネルギー資源を持つ国。鉱山に恵まれた国。そして、この流の国だ。


 流の国は、貿易の国だ。小さな国土ではあるが、右から左、左から右へと物を流し、利益を得る。それは石でさえ例外ではない。白の石一つが三つの赤の石に変わる。赤の石一つが五つの青の石に変わる。このようにして、流の国は各国とやり取りをしている。どの石がどの程度の価値なのか、米に換算するとどの程度なのか、宝石ではどの程度なのか、各国の貨幣を交換し、入れ替える。レートを決め、各国に利益が出るように気を使う。だからこそ、流の国は他国に信頼され、物流の拠点として栄えることが出来るのだ。

 流の国は小さな国だ。海に面しているものの、周囲は大国に囲まれ、かつては何度も侵略の危機に襲われた。それでも独立と文化を守り続けたのは、六百年前のグレイス女王がいたからだ。グレイス女王は隣国からの侵略を防ぐため他国と交渉し、信頼を得た。それが、流の国を物流の拠点「貿易大国」へと導いたのだ。

 流の国が世界の物流を動かしている。そんな流の国の行く末を握っているのが中央政府である。中央政府では、選りすぐりの術士や学士が国の行く末を握っている。レートを決めているのも彼らである。そんな流の国の秘宝が「色図」である。色図はグレイス女王が作り出した世界地図であるが、表しているのは国の形や広さではない。その上に色が動いているのだ。

 宵の国が持つ黒が強まったのは、十年前のこと。そして黒は勢いを増して渦巻いている。強い色を持つ大国が本領を発揮し始めたのだ。流の国は宵の国の情勢も細かく感知している。それを知らせてくれるのが色図なのである。

 流の国は色神を持たない国であるが、術士は存在する。適した色は様々で、優れた術士が色図を読み取る。色図を読み取る術士を色読という。同時に、術士を育てる大学が存在し、流の国は術士を育てている。円滑な貿易のためには、術士が必要なのだ。


 アンナは流の国の十六歳の術士だ。望まれようと、望まれまいと色読として将来を期待されている。流の国では珍しい黒い髪と黒い目を持つ者。間違いなく、異国の血を持つ者だ。


 流の国と切っても切れない縁のある国がある。結の国。結の国は、紫の石を持つ国である。流の国同様、大国にはさまれた小さな国だ。流の国と、遠く離れた国であるが、流の国とは切っても切れない縁なのだ。

 結の国が持つ紫の石には、面白い力がある。紫の石は、人と人の間に生じる距離を埋めることができる。つまり、言語を通訳することが出来るのだ。同時に、一つの紫の石を砕くと、破片に言葉を届けることができるのだ。だからこそ、貿易で国を支えている流の国は、紫の石を持つ結の国と切っても切れない関係なのだ。適切な貿易をするには言語面のハードルを消すことが第一なのだ。



 流の国で生きるアンナは何ともいえない気持ちだった。色図に移る色が変じているのだ。流の国の中央政府の一室には、グレイス女王が作り出した色図が厳重に保管されている。色図には、各国が持つ色の力が反映されている。アンナは、術士としての才覚を見出され、流の国の中央である大学で術と学を会得するために日々精進する日々である。才覚を買われ、色読となるために色図を見ていた。毎日、毎日、それがアンナの義務であった。そして、アンナの判断に誤りがないように、中央政府の色読が一緒にいる。今日は、アンナが信頼するメディラが一緒であった。メディラは、三十の若さで色読として取り立てられ、中央政府に派遣された。同じ女であることが、アンナにメディラへの親密感を抱かせるのだ。

 アンナは色図の異変に気づいた。色図は、物流のレートを決める重要な判断材料である。どの色つまり国が力を持っているのか、破産しようとしているのか、色神が入れ替わったのか、世界色図を解析すれば容易く分かるからだ。

「メディラ様。色図が……」

アンナは流の国の中央政府の一員であるメディラに声をかけた。メディラは色図の変化に気づかないのか、首をかしげていた。美しい茶色の髪はアンナの憧れであった。

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