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一色  作者: 相原ミヤ
異国と火の国
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穢れ無き雪の国と白(4)

 火の国と雪の国。大した接点も無い。しかし、火の国は、この数年で何度か白の石を使った。二年前に三度、そして先日に二度。それは、今のソルトが生み出した白の石だから、どの程度の力で使われたのか分かる。鎖国をしている火の国が白の石を使うということは、使ったのは色神紅か、紅に近しい人物のはずだ。火の国は内戦でも起こしているのかもしれない。


「無色」


ソルトは雪景色を見ながら、無色を思った。白が気にかける存在。無色を手にした色は、色の世界の覇権を握る。ソルトは白の繁栄に興味は無かった。


 しかし……


 ソルトは白のために無色を手にしたいとは思わない。しかし、火の国に興味があった。火の国に興味をもつ理由は一つ。

「白、火の国に白の石の力を百パーセント引き出すことが出来る者がいるわ。雪の国では誰も成しえなかった、白の石の力を百パーセント引き出すことを、火の国の人間がやり遂げたの。不思議よね。火の国は赤の国なのに」

ソルトは白に言った。白は苦々しいものを口にしたように顔を歪めた。

「白、私は誰が白の石の力を百パーセント引き出したのか、とても気になるわ。ありえないでしょ。普通なら。私は、誰が使ったのか本当に興味があるの。その力は、雪の国を救うかもしれないわ」

白は何も言わなかった。何も言えないのだと、ソルトは思っていた。

「白、あなたは無色に興味があるのでしょう。でも、私は興味が無いわ。私は火の国にいる白の石の力を百パーセント引き出す者に興味があるわ。でも、あなたは興味がないのでしょう。一つ、一致しているところがあるとすれば、私たちはどちらも火の国に赴きたいと思っていることね」

ソルトは白の顔を見るつもりが無かった。だから、高らかに声を上げた。

「アグノ!」

ソルトが呼ぶと、テラスへ一人の大柄の男が姿を見せた。年齢は四十ほど。ソルトが唯一信頼している男である。

 アグノは医学院の医師であった。ソルトのことを幼いころから庇ってくれていた。ソルトを医学院の外へ連れ出そうと無駄な努力をして、何度も罰を受けていた。どうやら、ソルトの母のことを愛していたらしい。母へを救えなかったと、一人後悔している姿をソルトは見たことがある。


 アグノがどのような思いでソルトを救ったにしろ、ソルトはアグノに感謝していた。アグノがいなければ、ソルトは医学院で生き残ることが出来なかっただろう。弱ったソルトの手当てをし、弱ったソルトに食事を食べさせ、ソルトの命をつなげ続けた存在だ。最終的には、医学院に目をつけられ、研究者でありながら実験体として扱われた存在だ。アグノはソルトを守ってくれていた。それは、色神となってからも変わらない。まるで大きな番犬のように、身体が弱いソルトを守ってくれている。医師としての技術も雪の国随一だ。

 アグノは高い身長を屈め、一つ微笑んだ。そして、何も言わずに大きな手で小柄なソルトを抱き上げた。

「アグノ、火の国に優れた力を持つ者がいるの。白の石の力を完全に引き出すことが出来る存在がね。私は火の国に行くわ。色神紅のことも気になるしね」

ソルトが言うと、アグノは柔らかく微笑んだ。

「それは、ソルトが信頼できる人が火の国にいるかもしれない。ということですか?」

熊のようにアグノは大きく微笑んだ。

「そうよ。白の石を完全に引き出すことが出来る者。とても気になるじゃない?神に近しい力を持っていいるんだもの。人となりを確かめなきゃ」

ソルトは言ったが、心の中は白の石の力を百パーセント引き出すことが出来る者に向けられていた。優れた力を持った者。白に適したもの。雪の国でなく、火の国に白と相性の良い者がいることが皮肉な現実だ。ソルトがアグノを見ると、彼は大きな笑みをさらに深めた。

「ならば、俺も同行しましょう」

アグノはゆっくりと足を進めた。アグノの後ろで、アグノが見ることの出来ない白が何とも言えない表情でソルトを見ていた。なぜ、白が自分を選んだのか。ソルトには分からない。他の色神がどうなのか知らないが、ソルトは白に対して大きな感情を持ち合わせていなかった。


――それでもいい。火の国へ、ソルトが向かってくれるのなら。


白が小さな声で呟いた言葉は、ソルトの耳にもはっきりと届いていた。

次話、舞台は流の国に移ります。

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