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一色  作者: 相原ミヤ
異国と火の国
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穢れ無き雪の国と白(3)

 雪の国の医学院が、世界最高峰の医療技術を得たのには秘密がある。雪の国ならではの秘密があるのだ。



 今のソルトは医学院で生まれた。母は生まれてすぐに死んだ。父の顔は知らない。ソルトになると名を捨てなくてはならないが、その必要は無かった。なぜなら、名を持っていなかったからだ。強いて名を言えと言われれば、このように答える。

(私はC-597号です)

と答える。

 ソルトの母も医学院の生まれらしい。ソルトとなって、医学院を調べ上げたから分かるのだ。


 医学院を支えるのは医師や技術者、研究者だけではない。実験体となる人間がいるのだ。一見すると人道に反した行為になるが、医学院は姑息な手を使っていた。死にそうになると白の石を使って命をつなげるのだ。死ななければ、違法な実験ではない。そのように誤魔化されてしまうのだ。ソルトの母は死んだ。しかしそれは、出産による死。という形で誤魔化されてしまった。出産にはリスクが伴う。母は自然に出産し、死んだということにされたのだ。実際は、新たな医学技術の進歩のために、不必要な手術を受け、新薬を投与されたというのに、誤魔化されたのだ。

 ソルトも生まれてから、いつくの実験に付き合ったのか分からない。新生児治療の研究をされ、乳幼児治療をされ、幾度と無く不必要な手術を受け、薬を投与されてきた。白の石を使って命を永らえた回数は二十を超える。白の石の力を完全に引き出せるものは少ない。ソルトの身体はわずかだが、確実に壊れ始めた。髪の色が変わったのは、何年か前の話だ。目があまり見えないのは、七歳のころからだ。食べ物の味が分からないのは、いつのころからか分からない。すぐに疲れてしまうのも後遺症だ。一つ、手にしたものは年齢以上の頭脳だ。一種の脳改造の研究によって、ソルトは誰もが認める聡明さを手にしたのだ。

 医学院では多くの者が死んだ。実験体として生まれた者だから、死ねば捨てられるだけ。白の石を使い、救命しても助からない者も多い。代償を支払いすぎて、人形のようになってしまった者もいる。ソルトの仲間の大半は死んだ。ソルトは幸運にも生き残り、白に選ばれたことで命をつないだ。


 雪の国の民は医学院のことを知らない。自らの穢れを知らない。医学院で働いていた者たちには、医学の進歩という理想しか持っていない。彼らは白と同じだ。自らは美しい、穢れていないと信じている。これほどにも醜悪だというのに。


 医学院の廃止には多くの反対意見が唱えられた。しかし、ソルトは断行した。確かに、雪の国に医療技術の進歩は必要だ。しかしそれは、民を救うためであり、雪の国を豊かにするためのものではない。実験体などもってのほかだ。

 雪の国に新たな道を示す。それがソルトの信念であった。


 ソルトは信念を持っている。しかし、どのように雪の国を導けば良いのか分からないのだ。しかし、実験体のような人柱を立てることは出来ない。ソルトは深い迷宮の中にいた。そんな中で、白が浮き足立ったのだ。

(無色)

その存在に白は惹かれているのだ。ソルトには色の覇権なんて興味は無い。白のことも大して好きではない。ソルトは白を利用して、白もソルトを利用している。そんな関係だ。

――無色が火の国に現れた。

白がそんなことを言っても、ソルトは無視していた。雪の国は白に覆われた大国。小さな島国火の国に興味を持つ必要は無い。

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