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一色  作者: 相原ミヤ
異国と火の国
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穢れ無き雪の国と白(2)

 雪の国は宗教国家と同時に、もう一つの顔を持つ。何の穢れも持たない、冷たく澄んだ雪の国が持つ残酷な一面。

「私はご機嫌斜めなんかじゃなくてよ。子ども扱いしないでちょうだい」

ソルトは白を見て、頬を膨らませた。


――今のソルトは気高く美しい。強く、美しく、幼いながら五年もの年月ソルトとして生き続けた。そうだろ。私のレディー。


白が微笑むから、ソルトの機嫌は悪くなった。白は色であるから、ソルト以外の人物には見えない。それを知りつつ、ソルトは白の顔を雪の国の民に見せてやりたいと思った。白は雪の国の本質と似ている。穢れを嫌い、自らは何にも汚れないままでいようとする。雪の国の内実は汚れ、穢れ、醜いというのに。


 命を扱うことが出来るから美しいの?

 命を扱う力を持つから尊いの?


ソルトは白に言った。

「忘れないでよ。私は、生きる。死んだりしないんだから。みんなと約束したんだから」

ソルトは白に近い色をした髪を翻し、白に背を向けた。ソルトの心を苦しめるのは、呪いの声。死んでいった者たちの声。一人生き残ったソルトを責めている。


――ソルト。私のレディー。この寒さに閉ざされた雪の国を変える力を持つ者。


ソルトは白の声に振り向かなかった。白が何を思って八歳の小娘をソルトにすえたのか分からない。ただ、確かなことは白に選ばれてソルトにならなければ、死んでいたということだ。

「ふざけないでちょうだい。私はあなたのためにソルトとして生きるんじゃないの。死んでいった仲間のために、雪の国を変えるの」

ソルトが思い出すのは、冷たいコンクリートの壁。タイルの廊下。牢獄。ソルトの髪の色が変わったのも、ソルトの人格を作り上げたのも、全てがあの場所なのだ。

 ソルトは雪の果てにある施設を思い出した。昨年視察に行ったとき、施設は閉鎖されていた。ソルトの権力が閉鎖させたのだ。だからソルトは生きなくてはならない。ソルトが死んだ途端、あの施設は再び蘇るに違いないから。



 雪の国は著名な医療国家として知られている。白の石と合わせて、人の命を救う国だと名が通っている。大した産物もなく、白の石にだけ頼って国家運営を行う雪の国にとって外資の獲得のために、特産が必要なのだ。特産として選ばれたのが、医療技術だ。優れた医療技術を求めて、各国の重役が雪の国に足を運ぶ。高度な治療と引き換えに、多額の金銭を得て収入を得る。もちろん、白の石を使った方が早い。しかし、白の石は通常医療に比べてさらに高額であり、一日一つしか使用できない。だからこそ、医療の進歩も必要なのだ。

 雪の国の医療技術の進歩を支えている施設がある。医学院と呼ばれる大学であり、雪の国の全国各地から優れた頭脳を持つ者が集められている。それは医師だけでなく技術者も同様である。医療の進歩には科学の進歩が必須なのだから。薬の開発、手術技術の開発、練習、難病の解明、全ての進歩を支えているのが医学院なのだ。

 医学院を作ったのは、二百年前のソルトである。白に言わせれば、産業の無い雪の国を変えようとした女性らしい。白は医学院を作ったソルトを庇おうとするから、ソルトは嫌いだった。自らが穢れていないと思い込んでいる白も、理想だけで医学院を作り出した先のソルトも、嫌いだった。白は嫌味の多い男だ。自らの色が最も美しいと思い込んでいる。ソルトには理解できない感情だった。

 医学院は雪の国の医療技術を格段に進歩させた。同時に、雪の国を穢していったのだ。

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