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一色  作者: 相原ミヤ
異国と火の国
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穢れ無き雪の国と白(1)

 命を扱うことが出来るのは神様だけ。


 じゃあ、命を扱うことが出来る白の石は神様の力?



 白い雪を見ながら、白いドレスをまとって、ソルトはそんなことを考えていた。ソルトとは雪の国の色神の総称である。男であっても、女であってもソルトと呼ばれる。先代のソルトが死したのは五年前。今のソルトが八歳の頃だった。十三歳の少女であるソルトは、白を司る者にふさわしい容姿をしていた。透き通るように白い肌。赤い唇。白髪とも思えるような銀髪。瞳は薄い水色であった。かつて、ソルトになる前、少女の髪は違う色であった。しかし、幼い頃より繰り返した事情により、気づけば色が変わっていたのだ。

 雪の国は、雪に覆われた国だ。寒さは厳しく、作物はあまり育たない。一年の大半は冬であり、わずかな夏に太陽の恵みを望む。夏の間に些細な穀物を作り、冬は狩りをして生きる。細々と、息を潜めながら、生きるのだ。

 ひらひらと舞い落ちる雪のように、生きるのだ。


 雪の国は作物も育たない貧しい国のはずだ。しかし、実際は違う。人々の生活は保障されている。


――命を扱うことが出来る白の石。


 雪の国はソルトを有している。誰しもが命を惜しく思い、誰しもが命を愛しく思う。だから、誰もが白の石を望む。白の石は高値で取引され、白の石一つを求めて異国の豪商が多量の貴金属や食物を送ってくる。


 雪の国は一年の大半を雪で覆われている。白を高貴な色とし、白と共に生きている。白に覆われた国で、白に生活を支えられているから、雪の国の民にとってソルトは神であった。命を扱うことが出来る時点で、神なのかもしれないが。

 雪の国はソルト神として崇めることでまとまる、宗教国家とも呼べる。一つの神を皆で信じ、一つの神のために生きる。だから、宵の国のように戦乱に襲われることも、火の国のように政治家が紅を暗殺しようとすることも無い。


 しかし、ソルトは代々短命であった。


「私は神様?」


ソルトは自らに問うた。白い雪景色を見ながら、雪の積もったテラスで、白い欄干にもたれて、その目は遠い世界を見ていた。冷たい雪は、生き物を拒絶するほどの美しさを持つ。雪景色は、まるで作り物の世界のようである。


「私はあと何年、ソルトとして生きるの?」


 代々、ソルトは数年で命を落とす。神として生きる重圧に耐えられないのだ。自らの選択で、一日一つの命を救える。他の命を見捨てる。ソルトに救ってもらおうと、城の周りには人が溢れている。しかし、ソルトには救えない。一日一つしか作り出せない白の石で、どれほどの命が救えるのだろうか。それに、白の石が救うのは目の前の消えそうな命だけでない。


 一つの白の石を複数の石と交換する。それで民の生活は支えられる。


 一つの白の石を、大量の食物に変える。これで民は冬を越せる。


 白の石は雪の国が持つ唯一の輸出物であり、白の石は雪の国を支えるものであるから。容易く使えば、大勢の民が生活に困る。


 神として、ソルトは選択しなくてはならない。天秤にかけなくてはならない。重圧に耐えられないソルトは、自ら命を絶つのだ。


「ねえ、白。聞いているんでしょ」


ソルトは雪の中に声をかけた。すると、白いタキシードをまとった男が立っていた。本物の白い髪をし、銀色の瞳をしていた。色白の肌に作りもののよな表情。それが白であった。汚れたものを一切排除したような存在。ソルトは白をそのように評価していた。背が高い男は、ソルトの身長にあわせるように片膝をついた。


――今日は私のソルトはご機嫌が斜めのようだ。


ソルトは自らを選んだ白を見て、空を見上げた。空からは雪が舞い落ちている。遠く離れた火の国と、この空はつながっているのか。そんなことを考えていた。

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